米プリンストン大学の経済学教授で、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏の「日本化するスウェーデン」と題するコラムが、4月20日付ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された*1

 この内容を非常に大ざっぱに言うと、「3年前にはグローバルな危機に対処するロールモデル、『回復のロックスター』であったスウェーデンが、その後中央銀行が早計に金融を引き締めた結果、停滞とデフレのスパイラルに巻き込まれて日本のような『デフレの罠』に陥ろうとしている」とし、これをもって「日本化している」とするものだ。

クルーグマン教授に「日本化」と言われノーベル賞授与を後悔?

「第2次大恐慌は回避したが完全回復に2年」、ポール・クルーグマン教授

スウェーデンで物議を醸しているポール・クルーグマン氏〔AFPBB News

 また、スウェーデン中銀がなぜこのような「ひどい間違い」を犯したのかについて彼は、同銀は「分析の理論的根拠のように聞こえるものを挙げているが、状況に応じてその言い分を変節させて」おり、「政策を変えないまま新しい理論的根拠を打ち出している」ため、はっきりした理由は分からないとも書いている。

 そして、中銀の過度な引き締め政策を「サド・マネタリズム」、つまり「加虐・被虐性マネタリズム」と呼び、「彼らは苦痛を与えることによって、どれくらいタフかを証明しようとしている」と言う。

 「サド・マネタリズム」は「サドマゾヒズム」のもじりだろうが、この用語自体は、英オブザーバー紙のウィリアム・キーガン記者による造語だということだ。

 クルーグマン氏はこの語を「失業率が高く、インフレ率が低い場合であっても、低金利と金融緩和を嫌悪する姿勢」と定義し、「スウェーデンの失業率は利上げが始まった直後に下げ止まり、最終的にデフレに陥った」としている。そして同氏は、このスウェーデンの金融政策を「サド・マネタリズムが作用する古典的なケース」としている。

 そして同氏によると、この「サド・マネタリズム」は「スウェーデンではすでに甚大な被害をもたらし・・・経済的な成功ストーリーを見渡す限りの停滞とデフレの物語へ変換した」。そしてスウェーデン、「回復のロックスターは日本になろうとしている」のだと言う。

 この言及について、多くの経済論者が「スウェーデンは、彼にノーベル経済学賞を授与したことを後悔しているに違いない」と揶揄している。ブルームバーグのウィリアム・ペェシェック記者は「スウェーデンは、クルーグマンにノーベル賞を与えたことへの後悔の念をぐつぐつと煮立たせているだろう」としている*2。この賞に付随してクルーグマン氏が手にした現金は1000万クローナ、当時のレートで約1億4000万円だ。

「We are not Japan!」――反駁するスウェーデン中銀と財務相

 スウェーデン中央銀行や財務相をはじめ、スウェーデン内の主要エコノミストは、クルーグマン氏の言及に対し軒並み反発している。

 中銀のペール・ヤンソン副総裁は、消費者物価は低下しているが、スウェーデンはデフレスパイラルには陥っていないと言明。クルーグマン氏の分析は同国の労働市場の拡大や経済成長率を考慮に入れておらず、「かなり雑」と切り捨てている*3

*1http://www.nytimes.com/2014/04/21/opinion/krugman-sweden-turns-japanese.html?_r=0

*2http://www.japantimes.co.jp/opinion/2014/04/28/commentary/japan-commentary/japanese-remark-serves-economists-purpose/#.U2Tcb6Lt3Yg

*3http://www.di.se/artiklar/2014/4/22/riksbanken-slar-tillbaka/