ロシアと国境を接する東部で、「人民共和国独立」の賛否を問う住民投票を求め、ロシア系住民のデモ隊が政府庁舎を占拠、ウクライナ情勢は先鋭化している。
今のところ、ロシアは静観しているが、「ヤルタからマルタへ」と言われた冷戦終了から四半世紀、「東西世界の境界線」を西へと移動させるロシアの「失地回復策」で、再びヤルタの位置するクリミアから冷戦は始まってしまうのだろうか。
ロシアとドイツに翻弄されてきたポーランド
先週末から劇場公開となっている『ワレサ 連帯の男』(2013)は、東西冷戦の幕引きに大きな役割を果たしたポーランドの独立自主管理労組「連帯」の運動を主導したレフ・ワレサ(原語に近い表示では「ヴァウェンサ」)を描いたアンジェイ・ワイダ監督の最新作。
北部の港町グダニスクを舞台に、1970年の食糧暴動に始まり、レーニン造船所でのストから、1989年11月の米国議会での「自由」演説に至るまで、実写映像を織り込みながら、ポーランドがソ連の軛(くびき)を脱していくさまが綴られる。
その演説からまもなく、地中海の小国マルタで、ジョージ・ブッシュ米国大統領とミハイル・ゴルバチョフソ連最高会議議長兼共産党書記長の会談が行われ、冷戦は終結した。
そして、かつてソ連の西側との防波堤だった東欧諸国は、いまやEUの一員となり、「東西世界の境界線」は東へと移った。
そんなワレサの伝記映画を撮るのは「自分しかいないと思った」と語るワイダ監督は今年88歳。かつて、ワレサ自身も姿を見せる『鉄の男』(1980)で連帯の「いま」を伝え、表現に制限のある時代から複雑なポーランド史を描き続けてきた活力は健在だ。
ワイダの名が広く知られるようになったのは、第2次世界大戦末期のワルシャワ蜂起を描く『地下水道』(1956)がカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した頃のこと。
1939年9月、独ソはポーランド分割の不可侵条約秘密協定を結び、侵攻を開始した。その分割ラインは「カーゾン線」。第1次世界大戦後、英国外務大臣(当時)ジョージ・カーゾンが、ポーランド東方の国境として提案したものだった。
18世紀後半に3度にわたる分割を受けて以来、国家が消滅していたポーランドはその提案を拒否、ポーランド・ソビエト戦争などを経て1921年に結ばれたリガ平和条約で、当時の国境は200キロほど東方に定められていた。