いつの頃からか、ゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラー、フォード・モーターのことを「デトロイト3」と呼ぶらしい。確かに「ビッグ3」とは言いにくくなってしまったから、言い得て妙と言うべきだろう。

 1970年代のビッグ3は輝ける栄光の星だった。私が通商産業省(現経済産業省)に入ったのも、「アメリカのビッグ3のような自動車が日本企業の手で造れないものだろうか」という思いがあったからだ。

 私は当時(1969年)、トヨペット・マスターライン(クラウンのライトバン。ちなみに中古車)に乗っていたのだが、時速100キロを超えると、ブルブル車体全体が震えて、車輪もドアもハンドルもバラバラに分解してしまうのではないかと心配した。道路が悪かったのも確かだが・・・。

 その後、西ドイツのデュッセルドルフに赴任して中古のベンツに乗っていたが、時速200キロメートルで走っても何でもない。静かなものだった。周辺の車も普通に時速160キロメートル程度で走っているから、そんなに早いという実感はなかったくらいのものだ。いずれにせよ日本車の実力はその程度であった。

日本のものづくりに株主至上主義は向いていない

 しかし、今や日米の自動車メーカーの力関係は様変わりだ。何と言ってもビッグ3のうちの2社が倒産し、残る1社も倒産こそしていないが、かなり重傷な状況にある。

 その凋落の原因は従業員の高賃金、手厚い保険制度・退職後の年金、不況による販売不振、顧客軽視の経営姿勢、経営陣の無能などが指摘されている。

 だが、最も本質的で根源的理由は株主優先主義ではないかと思う。

 昨今は日本でも「株主の権利」を言い立てる輩がそこら中にいて、「株主を軽視するから日本経済は発展しない」というような結論に結びつけているが、馬鹿げた説だと思う。

 かつて「ものを言う株主」と称した人物が、正義の味方を気取って、一時期マスゴミ、いや、マスコミにもてはやされたが、あっと言う間にグリーンメーラーとしての正体がバレてしまった。

 株主至上主義は、少なくとも「ものづくり産業」には向いていない。いや、日本社会には向いていない。

 かつて日本は法律も制度も技術も中国から学んだが、全く導入しなかった制度の1つに「宦官(かんがん:去勢された官吏)」がある。当時の「訳知りの中国通」は、多分「日本は遅れている」などとしたり顔で言っていたであろうが、日本は無視した(日本にも少数いたことはいたらしいが・・・)。

 株主優先主義などの、日本に向いていない米国ルールは無視するに限る。