2月15日、世界三大映画祭の1つ、ベルリン国際映画祭授賞式が行われ、黒木華が銀熊賞(最優秀女優賞)を獲得した。日本人俳優としては4人目という快挙。その出演作『小さいおうち』もコンペティション部門に出品されたが、受賞はならなかった。
『家族の灯り』の監督は105歳
そんな受賞式で、大きな注目を集めたのがアルフレッド・バウアー賞。前途有望な若手に与えられることの多いこの賞を、新境地へと向かう姿勢を評価された大ベテラン、アラン・レネ監督の新作が受賞したのである。
『二十四時間の情事』(1959)など、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手として知られる「忘却の作家」レネは、現在91歳。いまだ現役バリバリであることを世界に示したのである。
とはいえ、上には上がいる。現在劇場公開中の『家族の灯り』(2012)のポルトガル人監督マノエル・ド・オリヴェイラは、1908年12月ポルト生まれの105歳(撮影当時103歳)。
120年近い映画史にあって、オリヴェイラ以外の100歳以上の監督が手がけた作品は、レニ・リーフェンシュタールの『ワンダー・アンダー・ウォーター 原色の海』(2002)ただ1本(当時100歳)しかない。
さらに驚異的なことに、オリヴェイラは80歳を超えてから、現在に至るまで、ほぼ年に1本のペースで新作を発表し続けているのである。
そんなオリヴェイラ自身の投影でもある映画監督をイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニが演じる『世界の始まりへの旅』(1997)で、主人公は「私は共和制設立のとき生まれ、革命と戦争の真っ只中で成長した」と語る。
その言葉通り、ポルトガルでは、オリヴェイラ誕生後間もない1910年、王政が倒れ共和制が始まった。
しかし、その政治は不安定なものだった。そこに登場したのが政治経済学教授だったアントニオ・サラザール。1928年、財務大臣に就任、財政立て直しに成功すると、世界恐慌下の32年に首相となり、翌年には新憲法を制定。独裁体制「エスタド・ノヴォ(新しい国家)」が始まったのである。