2013年10月半ばからテレビ、新聞がこぞって「自動運転で走るクルマの実用化間近」というニュースを送り出し、自動車は遠からず「運転しなくてもいいもの」になるかのような“気分”が日本を覆いそうな状況を作り出している。

 なぜ同じ時期に同じ話題、同じ取材対象(車両と場所)のニュースが多く現れたのかと言えば、10月には「ITS世界会議」が東京で開催され、そこに出品されるデモンストレーションの内容とその機材(車両)が公開されたから、である。

 ITSとは“Intelligent Transport Systems”の略であり、日本語としては「高度道路交通システム」と訳されていて、「高度情報化によって道路交通の利便性や安全性の向上をもたらすシステム」の全般を包括する幅広い概念である。さらに言えば「情報の収集・処理・拡散」によって、人と物の移動全体に関して、時間やエネルギー消費、さらに快適さなどを最適化する領域まで、その概念が包括するものは広がっている。

 ちなみにこの時の某公共放送のニュース映像の中で、某社の試験車両が首都高速道路を走りつつ、ドライバーがステアリングホイールから完全に手を離して「今、自動運転で走っている」ことを強調したシーンが使われ、所轄官庁(おそらくは警察関係や交通関係)から「他にもクルマが走っている公道上で、ドライバーが車両を操縦していない状況があったことは不適切」と強い“指導”があったと聞く。

 その後、「レーンキープアシスト」(詳細は後述する)を装備した新型車の試乗会で、メーカーの広報担当者が「ステアリングホイールから手を離して走っている車室内の写真や動画は掲載しないでください」と、我々取材側にあえて念を押したのは、この“事件”ゆえだろうな、と苦笑いしてしまったものではある。

2013年秋、ITS世界大会の東京開催を前にトヨタが先進技術発表会で公開した「自動運転技術」の試験車両。レクサスLSにセンサー類などを満載している。車速の調節はクルーズコントロールと自動ブレーキの機能、進路の維持は電動パワーステアリングの機能を使ったレーンキープアシストをそのまま応用するだけで、コンピューターの判断に従った運転操作は容易にできるのが、今のこうした市販車である。(写真:トヨタ自動車)
ITS世界大会・東京を前にトヨタ他のITS開発に参画している企業によるデモ走行が実施されたが、その際に首都高速道路を先進技術実装車両が走行した1シーン。これらのデモは「アダプティブクルーズコントロール」と「レーンキープアシスト」を組み合わせて認知判断と制御の機能を多少強化したものにすぎなかったのだが、日本のメディアは「自動運転」「明日にも実用化」という稚拙な報道に終始した。(写真:トヨタ自動車)
こちらはレクサスLSに自動操縦機能を追加した車両(前出)がテストコースで「人間が運転操作を加えずに」走行している、という室内の状況。(写真:トヨタ自動車)