アメリカでは、きちんとした教育を受けていない親は、自分の子供の教育に熱心ではないと言われている。日本の場合は、一般的に富裕層の家庭は子供の教育に熱心だが、所得の低い家庭はそれほど熱心でないようだ。

 それに対して中国では、貧しい農民でも、自分の子供が将来少しでもいい生活ができるように、いい教育を受けさせようとする。お金がなければ、親戚などから借金してでも子供を学校に通わせる。

 なぜ中国人の親はここまで子供の教育に熱心なのだろうか。

 1つは教育を崇拝する伝統があるからである。文化大革命のとき、孔子があれだけ否定されても、孔子の教えである「学而優則仕」(学問をして優秀な者は出仕して官僚になる)は否定されず、今も一貫して信奉されている。つまり、ちゃんと勉強する者は出世するということである。

 もう1つは貧しい家庭の子供にとって真面目に勉強することは貧困を脱する近道である。例えば、農民の子供は真面目に勉強をして大学に入れれば、都市部の企業に就職できるようになる。そうなれば、農村戸籍から都市戸籍に転換することができる。

 また、中国社会の教育熱に拍車をかけているのは「一人っ子政策」による子供の減少である。今や子供の教育に熱心なのはその親だけでなく、祖父母も孫の教育に熱心に投資する。その結果、教育は一大産業に成長している。

 30年前の中国では、学校は主な教育の場であり、放課後の子供は近所で遊びまわっていた。春になると川でザリガニを釣る。夏になると蝉をとって遊ぶ。秋になると、コオロギを捕まえて戦わせる。子供らしい生活があった。

 今の中国では教育熱がぐんぐんと高まり、学校での勉強だけでは十分でなくなった。放課後の子供は学習塾に通い、それ以外にピアノやバレエなども習う。そのため外で遊ぶ子供はめったに見なくなった。

中国の「英才教育」の落とし穴

 30年以上も前の中国では、学校教育に飛び級のシステムが導入されていた。勉強のできる子供を発掘し、引き上げる仕組みがあった。