東地中海に浮かぶ小島キプロスが世界の関心の的となっている。3月16日行われたユーロ圏17か国財務相会談で、財政危機にあえぐキプロス共和国が最大100億ユーロの支援を受ける条件として、銀行預金に課税する、と発表したからである。

 19日夜には、キプロス国会が預金課税案を否決、先行きは不透明だが、銀行預金者にまで負担を強いる前代未聞の政策が提示されたことに、世界は動揺を隠せない。

金融機関の総資産はGDPの3~5倍とも

アフロディーテ誕生の地、ぺトラ・トゥ・ロミウ海岸

 ギリシャ国債購入の割合が極めて高い銀行の経営が、ギリシャの財政危機のあおりで急速に悪化し、昨年6月、EUなどに支援を要請していたキプロス。

 しかし、当時のディミトリス・フリストフィアス政権はその条件となる国営企業の民営化などの改革を拒み交渉は難航していた。

 ところが、2月の選挙で、緊縮財政に前向きなニコス・アナスタシアディス新大統領へと政権交代があり、国民のそして世界の大きな期待が寄せられるなか行われた交渉での答えがこれだったのである。

 今回、そのほかにも、法人税の引き上げという条件が掲げられているが、この国の法人税率は一律10%とEUで最低。実質的なオフショア金融ビジネスセンターとなっており、金融機関の総資産は国内総生産(GDP)の3倍とも5倍とも言われるいびつな状況にある。

 そしてその2~3割はロシアの資金。ソ連崩壊の頃からロシアの新興財閥の投資場所となっているのである。マネーロンダリングの場との懸念も拭い切れず、そうしたことを「総合的に」考慮したうえでの政策であるようだ。

 こうした金融ビジネスに次ぐキプロスの基幹産業は観光業。美しいビーチや美味なる食を求め、人口86万人ばかりの小国に、年間その3倍もの観光客がやって来る。

 ただし、鉄道もなく、バス便もよくないから、タクシーかレンタカーで動くことになるのでお金はかかる。とは言え、英語も通じるからあまり苦労はしない。車が左側通行なのも日本人にはありがたい。

 至る所にリゾートホテルが立ち並び、富裕層のための別荘も多いところはタックスヘイブンのカリブ海島嶼国家に似ている。しかし、この島の真の魅力は多くの文化が混在する歴史にある。