ドイツの有名なニュース週刊誌「シュピーゲル」のオンライン版に、1月21日の午後、次のような記事が載った。
麻生大臣が知ったらビックリ仰天すると思うが、“大臣が介護の必要な人間に早く死ぬよう要請(Minister fordert Pflegebedürftige zum schnellen Sterben auf)”という見出しで、リードには、“彼(麻生氏)は介護の必要な人間に、できるだけ早く死ぬように訴えた(Er appellierte an Pflegebedürftige, möglichst bald aus dem Leben zu scheiden.)”。
独大手メディアが歪曲報道した麻生大臣の「ショッキングな発言」
本文には、“日本の麻生財務大臣は、社会保障の改革委員会の会合で、急激な改革案を表明した。「死にたいのに生きることを強制されて、そのうえ、すべて政府が金を払っていると思ったら、ゆっくり眠ることさえできない」と、72歳の大臣は月曜日の会合で述べた”と続く。
このシュピーゲル・オンラインの記事を送ってきたのが日本語学を勉強している長女だったが、私がすぐ日本のニュースを探したら、朝日新聞デジタルが麻生大臣の言葉を次のように引用していた。
“いい加減死にてえなあと思っても、「とにかく生きられますから」なんて生かされたんじゃあ、かなわない。しかも、その金が政府のお金でやってもらっているなんて思うと、ますます寝覚めが悪い”となっている。
これを読むと、麻生氏が自分の場合ならどうしたいかを述べたものと取れる。日本語には主語がないが、ドイツ語は主語なしでは作れない。つまり、これをドイツ語に訳すなら主語は「私」になるはずだ。「私はかなわない」「私はますます寝覚めが悪い」ということだ。
ところがシュピーゲル・オンラインのドイツ語訳では、主語は「私」ではなく、不定代名詞の「man」、つまり、不特定の人々一般を指す名詞となっている。すなわち、ニュアンスは全く違ってくる。
長女は両方読んで、「これは誤訳ね」と言った。もちろん誤訳だが、問題は、それが故意かどうかということだ。
しかも、朝日のデジタルニュースには、シュピーゲル・オンラインが麻生氏の発言としている「老人はできるだけ早く死ぬように要請した」というような内容はどこにも見当たらない。
麻生氏は、(自分なら、意識もなく生かされるより、自然に死にたい。そう思っている人は多いのではないか)という意味で、“さっさと死ねるようにしてもらうとか、いろんなことを考えないといけない(朝日新聞デジタル)”という発言に至ったのだと思うが、それは、日本だけでなく、世界の先進国で一様に問題になっている終末期医療の問題だ。延命治療をやめようという動きは、もちろんドイツにもある。