円安による輸出産業の業績改善、それを期待した株価の上昇・・・と、経済面ではプラス方向の話題とともに幕を開けた2013年。今回は輸出産業の中核である自動車の分野から、その実態はどうなのかを読み解いてみることにしよう。

 もちろん、強烈な円高に苦しんでいた自動車メーカー各社にとって、それこそ1円でも2円でも円安に振れてくれればそれだけで収支は劇的に好転する。通期の利益は大幅に増加することになろう。ただし、それが自動車産業全体の収支改善に、すなわち好況に直結するわけではない。

 今日の日本の産業構造では、円安で潤うのは自動車メーカー、すなわち最終製品を組み立て、輸出する企業だけにとどまる。なぜならば、円高になったからといって、最終製品組み立てメーカーはサプライヤーからの部品や、鋼鉄をはじめとする素材の価格を上げることはしないからだ。円高状況の中で無理に無理を言って設定した納入価格を維持する。だから彼らの手元に為替変動分がそっくり利益として残るのである。

 その一方で部品メーカーや素材メーカーにとって、海外から輸入する原料の価格、そしてエネルギーコストは円安とともに上昇に移る。つまり彼らの利益はむしろ減少する。そしてそれは2次、3次とサプライチェーンを遡るほどに厳しくなってゆく。なぜなら、もともと利益をギリギリまで切り詰めている加工品の原価の過半は素材費なのであって、その価格が、そして電気料金などが上昇すれば、下請けの小さな会社の資金繰りはあっという間に厳しくなる。

 ものづくりプロセスの最下流で待つ最終製品組み立てメーカーであれば、自らの生産2日前に計画確定、その段階でサプライヤーに部品の内容と数量を確定発注すれば「ジャスト・イン・タイム」でモノが納入されてくる。しかし上流側ではそうはゆかない。小さな板金部品1つであっても、要求されるであろう納入量を推測して、素材をはじめ必要なものを何カ月も前からあらかじめ手配しておく必要がある。だからリーマン・ショック直後の急激な減産で経営危機に陥り、廃業に追い込まれたところも多かったわけだし、円安による資材価格引き上げの波も、こうした末端の中小企業が最初に受けるのである。

 つまり、サプライチェーンの末端にまで円安が生む利益が流れてゆかなければ、日本のものづくり産業全体が落ち込んでいる沈滞は改善されない。すなわち日本経済全体の再生、活性化にはつながらない。

 今日、最終製品組み立てメーカーがそこまで目を配ることはないだろうけれども、自分たちを支える「ものづくり共同体」全体に対して、利益が消えた時と同じ速さで、増えた利益を浸透させる責任を負っていることを意識してほしいものである。

直線的に回復基調が続くアメリカ市場

 その一方で、アメリカの乗用車市場の回復基調と、その中で日本車の販売台数が大幅に増えた、というニュースもメガメディアがそれぞれに取り上げている。これは2012年通年の販売実績が1月早々に公表され、その数値をごく表面的に拾っただけのものだ。このコラムで何度か指摘してきたことだが、こうした実績値を取り扱う時に「前年比」「前年同月比」という指標を安易に使うと、見えるべきものが見えなくなってしまう。

 2012年アメリカ乗用車販売における日本勢の実績もそうだ。「前年」すなわち2011年は言うまでもなく東日本大震災、さらにその後に起こったタイの洪水があった。その影響は日本生産分だけでなく現地生産への部品供給にも及び、販売現場への製品供給が思うに任せない期間があった。その「前年」の実績だけを「割り算の分母」にした数字で市場を「読む」ことはできない。