北朝鮮が、12月10日から22日の間に衛星を打ち上げると発表した。2012年4月13日にも打ち上げを試みて失敗しているが、同じ東倉里の西海衛星発射場から同じ南方向への打ち上げとのことである。打ち上げに使うロケットは、やはり前回と同じ「銀河3号」だが、これは弾道ミサイル「テポドン2改」のことだ。

 北朝鮮は国連安保理の制裁決議で、弾道ミサイルの技術を使ったロケットの発射を禁止されており、打ち上げは明確に違反になるが、自分たちではあくまで平和的な宇宙開発だと主張している。金正恩政権は4月の失敗で完全にメンツを失ったかたちになっており、再発射はいずれにせよ既定路線だったろう。おそらくあとは、タイミングの問題だったと思われる。

 では、なぜ今なのだろうか? 7つの可能性が考えられる。

(1)「技術的な日程」

 単に、前回の失敗の要因が改善され、技術的に再打ち上げの準備が整ったから。北朝鮮の弾道ミサイル開発は純粋に安全保障の問題で、政治日程よりも優先されるため、「できるようになったから実行するだけ」ということ。

 実際、前回は失敗したものの、2009年には3段式ブースターの2段目までが3000キロメートル以上の飛翔に成功している。おそらく技術的には、すでにかなり確立されていたものと推測される。

(2)「韓国の衛星打ち上げに合わせた」

 韓国が11月29日に衛星の打ち上げを計画していたので(トラブル発生により延期)、北朝鮮はその直後に発表するという日程を準備していた。韓国が衛星打ち上げをしているのだから、北朝鮮だけ禁止というのはおかしいとの理屈だ。

(3)「韓国大統領選に合わせた」

 韓国が12月19日の大統領選でバタバタしているため、激しい反応を避けられるとの期待があった。韓国メディア各社も「大統領選を牽制する狙いがあるのかも」と言及しているが、北朝鮮の挑発行為はむしろ対北強硬派に有利に働くので、それはあまり関係ないように思う。

(4)「金正日の命日に合わせた」

 4月の金日成生誕100周年での衛星打ち上げ(失敗)は、故・金正日の遺言によるものだった。この12月17日はそんな金正日の一周忌であり、故人を称える意味を込めて時期を合わせた。

(5)「金正恩の実績作り」

 金正日の一周忌ということは、金正恩政権発足1周年でもある。衛星打ち上げは金正恩政権1周年の祝砲となり、同時に金正恩・第1書記の実績となり、カリスマ性・求心力をアップすることが期待できる。

(6)「軍部の掌握」

 金正恩政権はこれまで、4月に禹東測・国家安全保衛部第1副部長を、7月に李英鎬・総参謀長を粛清したうえ、11月29日までに金正覚・人民武力部長を更迭するなど、軍部の実力者をことごとく排除している(金正覚更迭により、2011年末の金正日の葬儀で霊柩車に付き従った軍部トップ4人組は全員がオモテ舞台から排除されたことになる)。そのため軍部内に動揺が生じているが、軍事的な大きな成果を上げれば、それを抑え込むことが期待できる。

(7)「核実験への布石」

 いきなり核実験を行えば、アメリカを中心とする国際社会の大きな反発が予想されるため、北朝鮮としては、「アメリカが理不尽な敵視政策を強行したため、自衛のために核開発を余儀なくされた」という構図にしたい。そこでまずは衛星打ち上げを行い、アメリカ主導の制裁を引き出すことが必要となる。つまり核実験がメイン目的で、衛星打ち上げはそのための布石である。

 以上において、どれか1つだけが理由とは限らない。複数の理由が存在することも当然考えられるが、いずれにせよ北朝鮮は国家的悲願である核とミサイルに関しては、政治的要素よりも軍事的要素を優先させてきているから、筆者としては(1)「技術的な日程」が可能性としては最も高く、副次的な意味で(2)「韓国の衛星打ち上げに合わせた」(5)「金正恩の実績作り」あたりの意味合いがあったのではないかと推定している。

テポドン発射を核実験につなげるつもりなのか?

 ただ、これらの中で、最も警戒すべきは「核実験への布石」だ。テポドン2改自体は既存のロケットの改良版で、軍事的にはその打ち上げにさほど大きな意味はないが、これが核実験に繋がれば、日本にとっても死活的な脅威になる。北朝鮮が小型の核爆弾を完成させれば、日本列島はいよいよ核ミサイルの射程に入ることになるからである。

 4月の打ち上げ失敗の後も話題になったが、北朝鮮はこれまで、2006年、2009年と、実際にロケット打ち上げを核実験に繋げてきている。