今から23年前、北京の大学生を中心に、政府に対して民主化の政治改革を求める大規模なデモが起きた。政府は学生の要求を受け入れず、武力で学生運動を鎮圧した。これがかの有名な「天安門事件」である。

 その後、中国内外で「改革開放」政策に失望するムードが漂い、日本の中国研究者の一部は中国が分裂・崩壊すると予言した。しかし、その後の中国は崩壊するどころか、急成長を成し遂げ、2010年についに日本を追い抜いて世界第2位の経済大国になった。

 中国研究者を悩ますのは、中国という巨大国家の全体像を捉えきれないまま、その行方を予測しなければならないことである。中国の陰の部分にフォーカスすれば、まったく明日はないような感じになる。

 1990年代から2010年までの20年間、先進国における中国の見方は大きく変わった。すなわち、「中国崩壊論」から「中国脅威論」に論調が変わってしまった。今となって、中国が崩壊すると主張する論者はほとんどいないだろう。でも、中国が怖いと指摘する論者は少なくないはずである。

 では、10年後、あるいは20年後の中国はどのような国になるのだろうか。おそらく現段階で明確なビジョンを示せる論者はいないはずである。

中国の専制政治が抱える問題

 中国の政治は名実ともに共産党一党支配の専制政治である。モンテスキューの著書『法の精神』によれば、世界の政治体制は「共和制」「君主制」と「専制体制」の3種類に分けられる。今の世界政治の主流は、間違いなく「共和制」の民主政治である。

 中国憲法でも、中国の政治体制は共産党が指導する複数政党の連合体制ということになっている。中国の歴代指導者も民主主義を否定したことはない。だが、実際の政治運営は一党支配の専制政治である。

 経済運営の面から見ると、政治体制の役割は大きく2つに分けることができる。1つは、資源を動員して生産活動を行うことである。もう1つは、作られた富を一定のルールに基づいて分配することである。