先日、知り合いのマスコミ関係者の案内で、生まれて初めて、他人を殺めた人間を生で見る機会があった。所はさいたま地裁の第2法廷。生の法廷を見ること自体、初めての経験だった。
被告人の33歳の男は実の弟を殺害して床下に埋め、他に強盗事件を4件も起こしている。弟をコンクリートのブロックで殴り殺したというからどこぞのチンピラ風の怖いお兄さんを想像していたのだけれど、実際に見る被告人はどこにでもいそうな中肉中背のおとなしそうな普通の青年だった。
判決は無期懲役。裁判長が主文を読み上げても被告には動揺した様子ひとつない。理由が読み上げられる15分ほどの間も被告人は悪びれたそぶりさえ見せず、だるそうに首を回してポキポキと鳴らしたり、あらぬ方向を眺めたりしていた。どのみち控訴するんだから早くしてくれよ、とでも言いたげな態度だった。
被告人は閉廷するや否やせせら笑うような表情を浮かべ、拘置所職員に手錠を嵌められながら、弁護人に一言「コウソ」と告げた。
なぜか被害者を叩くマスコミ
被告人の罪状の主たるものは強盗殺人と死体遺棄。それだけでも無期懲役に値するものではあった。
しかも、それだけではない。彼はその凶行のほか、殺めた弟の車を使って強盗事件を4件も犯している(未遂も含む)。うち3件は同じ牛丼チェーンの店を狙ったものだった。しかも3度目には「恒例の◯◯強盗です」と名乗るなど、まるで世の中をなめ切ったような物言いで店員に凶器の包丁を向けていたという。
思えばその牛丼チェーン店への強盗事件の報道が相次いだ時期があった。初めのうちは淡々と事件を5W1Hで伝えていた報道機関も、頻度が上がると今度はチェーン店側の防犯体制の不備を指摘するようになった。
どこかがそんなことを言い始めると他のメディアも遅れまいと一気に右に倣えするのが日本の報道の特色だ。牛丼チェーンの運営会社を批判する論調が相次ぎ、防犯の甘さが強盗事件を助長しているとまで言ってのける媒体もあった。