人生はひょんなことで進路が変わったりする。大学を出て企業や役所に入って定年まで勤め上げて、予測通りのエンディングを迎える。そういう手堅い人生もあれば、冒険や放浪にも似た人生もある。さらに、偶然の出会いやアクシデントによって思いがけない方向に進むこともある。
海外移民がその典型だろう。最初は“出稼ぎ”のつもりで異国の地を踏んだものの、気がついてみたら現地に根を張り家族もできて、やがてその国の人になっていくという不思議と言えば不思議な展開がある。
移民のつもりはもともとなかったが、渡米して半世紀余、当初は予定もしなかった日本文化を広める仕事で功績を成し遂げたジェームズ三堀氏と千栄子さん夫妻の2人の足跡は興味深い。
今春の叙勲で、千栄子さんは、日米文化の交流促進への貢献に対して旭日双光章を受章した。また、これより9年前三堀氏も同章を受け、夫婦揃っての珍しいケースとなった。
フロリダの森上美術館・日本庭園で
夫妻が暮らすのはアメリカ本土の東南部、フロリダ州でも南部大西洋岸のまちデルレイビーチ。2人は、地元にある「森上美術館・日本庭園」(正式名称:The Morikami Museum and Japanese Gardens、以下モリカミと略す)の副理事長(文化担当)を長年務めている。
カリフォルニアなど日系移民の多い太平洋岸と違って大西洋とメキシコ湾に挟まれ、カリブ海を南に控えたフロリダでは、こうした日本の庭園はユニークと言っていい。
このモリカミはNPOで運営されており、三堀夫妻はボランティアとしてこの役職にある。ここで働いている人はもちろん有給の職員だが、アメリカではこうしたNPOの役員はほとんど無給のボランティアだ。
1977年にオープンしたモリカミは三堀氏の存在なくしては実現しなかったろう。一方、千栄子さんは、このモリカミで、生け花やお茶、日本舞踊などを自ら実演し、その魅力をアメリカ人に伝えてきた。
かつては湿地を含んだ原野であり、蚊などの虫が無数に飛び交い、ワニやヘビも出てくるという土地だったのが、今は約200エーカー(約24万坪)にもおよぶ立派な日本庭園などに姿を変え、園内では真夏の盆踊りをはじめ季節の行事が催され、日本語や生け花など“カルチャー教室”が常時開かれている。
メーンの建物内には日本の伝統的な芸術作品などが展示され、立派な茶室が設けられている。このほかシアターや日本の工芸品などを扱うショップ、そして日本食レストランも併設されている。フロリダという土地柄を考えるとこれだけ日本的なところはまずほかにはない。