我が社の常識は世間の非常識・・・これも日本的経営の特色ではないだろうか。なんとも根強い、と思わされたのは、2030年に向けて原子力発電(原発)の割合などエネルギー政策を決めるために政府が国民の声を聞く意見聴取会での出来事だった。
宮城県仙台市で開かれた聴取会には東北電力の社員が、愛知県名古屋市で開催された会には中部電力の社員が意見を述べる立場で参加していたことが問題になった。
聴取会では政府が提案している2030年の原発割合を「0%」「15%」「20~25%」とする3案について、それぞれ賛成意見を一般市民から選ばれた代表が述べるという形で行われている。電力会社社員は「20~25%」案について賛成意見を述べるために応募、選ばれて出席し、発言したのだ。
電力会社は、エネルギー政策がどうなるかで利益を左右される利益当事者である。そこの社員も、当然ながら利益当事者となる。利益当事者からしてみれば、原発割合は高ければ高いほど好ましい。
だから、「20~25%」案に賛成なのだ。意見を聞くまでもなく彼らが、より割合の高い案に賛成し、そちらに誘導したいと思っていることは明らかなことなのだ。そんな彼らが、「一般市民」として意見を述べるというのは、おかしなことなのだ。
意見聴取会で電力会社の理屈を力説
しかも、テレビのニュースで画面から流れてきた電力会社社員の発言を聞いて唖然とした。
身分を先に明らかにしたまではよかった。後になって身分がばれたら、それこそ激しく叩かれるのは目に見えている。原発推進賛成のメールを電力会社社員に送らせて問題になった、いわゆる「やらせメール事件」に少しは学んでいるのだろう。
だが、その後がいけない。「会社の考えを説明させていただきます」と、その社員は言ったのだ。一市民の声を聞くのが目的の意見聴取会で、電力会社としての考えを説明するとはどういうことなのか。電力会社として説明するのなら、そういう場を自ら設定して行うのが常識である。一市民として参加しながら会社の考えを述べること自体、すでに非常識だ。
税金を取られる側の意見を聞くのが趣旨の場に、税金を取りたてる側が乗り込んで取りたてる理屈を述べるようなものである。趣旨がまるで違う。それを平気でやるのだから、やはり非常識と言われてもしかたあるまい。