前回は「ソウルに中華街がない」と書いた。これには若干注釈が必要だ。先週のソウル出張中、韓国語でなく「中国語が幅を利かす街」が市内にいくつかあるという噂を聞いた。羽田に帰る日の朝、ようやくソウル南郊の「中国人が多く住む」地区を2カ所訪れることができた。
デリムドン(大林洞)とカリボンドン(加里峰洞)。どちらもソウル市南部の工場地帯に近い。店の看板も、写真の通り、ハングルより漢字が主流だ。でも、筆者に言わせれば、これらの街は決して「チャイナタウン」ではない。そう考える理由を今回はご説明したい。
朝鮮族街の旅行代理店
実際にカリボンドンの街を歩いてみた。どうも中国とは雰囲気が違う。店員たちは知的で綺麗な中国語を喋るが、やはり何かが異なる。彼らの出身地と出自を聞き出して、ようやく納得できた。話を聞いた店員の多くは遼寧、吉林、黒竜江(東北三省)出身の朝鮮族だった。
右の写真はカリボンドンのある旅行代理店の店頭広告だ。店は結構繁盛していた。
「内外旅行サービス」と書かれた下にサービスメニューが11個列挙されている。これを見れば、この街の中国朝鮮族たちが今何を望み、いかなるサービスを必要としているかは一目瞭然だ。
●親族呼び寄せ
●親子鑑定
●国際結婚
●国籍申請
●永住権申請
●運転免許証変更
●中国領事館認証
●外交部認証代行
●格安航空券
●領事手続
●離婚相談
いずれも朝鮮族出稼ぎ労働者にとっては重大関心事項。どうせ中国に戻っても二級市民扱いは変わらない。恐らく彼らの一部は、あらゆる手段を駆使してでも、中国にいる両親・親戚を呼び寄せ、韓国で国籍や永住権を取得し、韓国で生き延びることを画策しているだろう。
酔っ払いと暴力の街
次の写真も面白い。2本の横断幕は地元警察の派出所がカリボンドン地区の入口に掲げたものだ。韓国語と中国語で「酒酔い暴力行為は厳禁」と書いてある。
恐らく夜になれば、この界隈では飲んで暴れる輩が大勢いるのだろう。中国人か、韓国人かは知らないが・・・。
そう言えば、キョンギド(京畿道)アンサン(安山)の工業地帯にも多くの中国人出稼ぎ労働者がいるそうだ。
「中国系マフィアが跳梁跋扈するので、夜になると韓国の警察も手が出せない」。こんな話を韓国の友人から聞いた。カリボンドンもこれと似たり寄ったりなのだろうか。
中国人労働者たちが荒れる理由も分かるような気がする。前回書いた通り、そもそも韓国の対中国人差別意識は相当根強い。中国からの出稼ぎ労働者も千差万別、中には豊かな韓国で誰もやりたがらない3K・低賃金・単純労働に甘んじる者も少なくないのだから。