毎年4月、ラスベガスで NAB Show が開催される。NAB は National Association of Broadcasters の略で日本の民放連に当たる。放送機器や広告、ネット配信といった映像コンテンツに関わる大規模なカンファレンスだ。

 今年は9万人が来場した(NAB2012に関する詳細なリポート『明日のメディア デジタル - 周波数問題で揺れる放送業界 NAB2012 -』」はこちらから)。

周波数オークションを推進するFCC(連邦通信委員会)のゲナコウスキ-委員長(筆者撮影、以下同)

 今年の NAB Show で筆者がいちばん楽しみにしていたのはFCCのジュリウス・ゲナコウスキー委員長の講演だった。

 なぜなら、彼が推進していた周波数の「インセンティブオークション」の実施が決まったからだ。米国議会は、今年の2月にFCCにオークション実施の権限を与えている。

 1月にCESで彼の講演を聞いたときは、まだこのオークションが実施されるとは決まっていなかったので、内容もだいぶ変わるのではないかと期待していたのだ。ちなみに、FCC は Federal Communications Commission で、連邦通信委員会と訳される。

米国の周波数インセンティブオークション、実施の背景

 「インセンティブオークション」とは、地デジで放送局に割り当てられた周波数帯域を、再度オークションにかけ、無線ブロードバンド用に割り当てる目的で実施されるオークションだ。

 なぜ「インセンティブ=動機」という名称が付いているかというと、現在周波数帯域を割り当てられている放送局が、このオークションで利益を上げられるからである。

 通常、周波数は割り当てられた事業者の免許期間が切れるときに、再度新たな割当先を募集、あるいは決定する。今回のオークションは、放送局に割り当てられた免許期間中であるにもかかわらず、FCCがオークションを実施するという点が変則的と言える。

 では、FCCがこの施策を遂行しようとする背景は何なのだろうか?

 まずは、スマートフォンやタブレットといったモバイル機器の普及だ。今年1月のCESで発表された資料によれば、米国では2012年から2015年の4年間で、スマートフォンは5億台、タブレットは1.4億台普及すると予測されている。合計6.4億台だ。

 この予測は2011年に出された数値よりも20%も多い。つまり、普及の加速が増している。