「日本の銀行は今回の規制強化を乗り越えられるから、ご心配はご無用。ただ1つだけ頭の痛いところがあるが・・・」――
リーマン・ショックを教訓に国際決済銀行(BIS)バーゼル銀行監督委員会が銀行規制強化の検討を進める中、金融当局の関係者がふと漏らした。そして名指しこそ避けたが、頭痛のタネがみずほフィナンシャルグループ(FG)であることを認めた。
2010年末までに決まる見通しの新BIS規制では、銀行は普通株と内部留保で構成される「狭義の中核的自己資本(コアTier1)」を厚くするよう迫られる。すなわち、普通株への転換権のない優先株などで水増ししてきた邦銀の資本政策が通用しなくなる。新規制をクリアできない銀行は、国際金融界から「退場」を命じられるだろう。
3メガバンクの中では、収益力の劣るみずほのコアTier1が最も薄いため、経営陣は金融庁から有形無形の圧力を受けながら焦りを募らせていた。2010年5月14日、2010年3月期決算とともに8000億円規模の普通株増資の計画を発表し、何とか危機を回避できたかのように見える。
「6頭立て馬車」が牽引してきた「2バンク制」
しかし金融庁や日銀などは、みずほの脆弱な収益力と資本基盤の根源はコーポレートガバナンス(企業統治)の不備にあると考えている。経営体質を刷新できない限り、みずほの危機は去ったと言えないのだ。
みずほの内部では今なお、旧富士、旧第一勧業、旧日本興業の出身行別に派閥が鎬を削り合い、ポストの争奪戦が展開されている。
みずほFGの傘下に個人や中小・中堅企業を担うみずほ銀行(BK)と、大企業向け融資や投資銀行・国際業務を扱うみずほコーポレート銀行(CB)が併存する異例の「2バンク制」を採る。FG、BK、CBのそれぞれに会長と社長または頭取のポストを設けて旧3行で分け合い、「6頭立て馬車」が牽引する経営構造になっている。
このうち3つの会長ポストについては、2009年に新設したばかり。しかし今回の決算と同時に前田晃伸FG会長(旧富士)、斎藤宏CB会長(旧興銀)、杉山清次BK会長(旧一勧)の「3トップ」がわずか1年余で同時退任する人事が発表され、みずほ内外に衝撃が走った。