上場を廃止する企業が増えているという。

 2011年2月3日付の「日本経済新聞」(ウェブ版)は「株式市場で自ら上場を廃止する企業が相次いでいる」と報じ、「2010年は経営陣が自社の株式を株主から買い上げる手法(MBO)で10社が上場廃止となり、日本でMBOが本格化した2005年以降で計64社が市場を去った」と書いている。そして2011年も、21社が自ら上場廃止の道を選んだという情報もある。

 なぜ、自ら上場廃止の道を選ぶのか。

 よく言われる理由に、コスト削減がある。上場維持には、株主総会や決算開示、監査法人への報酬など、数千万円とも言われるコストがかかるからだ。

 敵対的買収を防ぐという理由もある。株式を公開していると、「買い占め」の脅威に常にさらされていることになる。それを避けるには、上場を廃止してしまうに限る。

 2010年に、上場から60年という節目で上場廃止の決断をしたお笑い界のトップ企業「吉本興業」の役員も、「上場を維持していれば、ハゲタカファンドに買い叩かれて、ボロボロになっていたでしょうね」と感想を漏らしている。自らを守るために、上場廃止は重要な選択肢になってきているのだ。

 さらに、経営をやりやすくするため、という理由もある。上場していれば、株主の意向を意識した経営にならざるをえない。株主を「無視」できた、かつての日本的経営と違い、昨今では株主優先の経営を余儀なくされる流れになってきている。株価を上げる経営に専念しなければならず、日本的経営の特徴とも言われた、将来のために目先の損に目をつぶるようなことは簡単にはできなくなっている。それが日本企業の力を削ぐことになっているという指摘もあるが、株主優先の風潮と制度の中では株主を無視できないのが現実だ。

 そうした問題を解決してしまうには、自ら上場を廃止してしまうに限るのだ。上場維持のためのコストもかからないし、敵対的買収に神経を尖らせる必要もなくなり、目先にとらわれず長期的な経営戦略も立てられる、というわけだ。

「一流の証し」を手に入れたい経営者たち

 そうなると、「なぜ上場したのか」という疑問がわいてくる。言うまでもなく、上場は簡単なことではない。認めてもらうだけの決算内容にしなければならないし、手続きのためのコストと人的エネルギーも莫大なものになる。