1984年、私が朝日(現あずさ)監査法人に在籍していた時の話である。
私の直属の上司であるレオ・ケリーが、「これからERP(統合業務パッケージ)の時代が来る」と言い残して、さっさと辞表を出して辞めてしまった。
彼は、ダン&ブラッドストリート・ソフトウェアというソフト開発会社に入社した。その会社はすぐに、ディー・アンド・ビー・テクノロジー・アジアという社名に変更し、95年からERPソフト「Super Stream」を販売し始めた。
六本木のワンショットバーで、「今、欧米ではERPの導入が盛んだ。日本にも必ずその波は押し寄せてくる」と鼻息荒く語っていたのが、昨日のことのように思い出される。
その席上で、ケリーは「国際会計基準に準拠していない国は、間違いなく世界に後れを取る」と言い切った。私は「国際会計基準ってなに?」と聞いた。私にとって初めて聞く言葉だった。
ケリーは、ディー・アンド・ビー・テクノロジー・アジアの六本木のオフイスで、「お前の席は、ここに用意してある。だから早く来なさい」と言ってくれた。だが、私はその頃、自分の独立の準備をしていたので、丁重に断った。
しかし、その後、私はSuper Streamの販売に関わり、Super Streamで人事系システムを構築するなど、ERPの分野に飛び込んでいくことになる。
現在、Super Streamの開発・販売は、キヤノングループ傘下のエス・エス・ジェイが行っている。2009年度の導入実績は約360社。累計導入社数はすでに約5800社になり、公開・上場企業の導入社数は約600社に上る。
Ver.1.0をリリースした直後の頃の苦労を考えると、嘘のようである。「何とも立派なツール(パッケージソフト)に育ったものだ」と感無量の思いだ。
ツールベンダーの最大の問題は資金と人材が足りないこと
国産ツールを普及させるために必要なものは何だろうか。
日本のIT業界は、ハードウエアやOSに限らず、データベースやあらゆるインフラ回りの製品も輸入品に頼っている。UPS(無停電電源装置)などは、日本製品が簡単に世界シェアを取れそうなものだが、当社でさえ米APCのUPSを多数使用している。
一体、なぜなのか?
まず、国産ツールの場合は、ターゲットが日本企業のみとなる場合が非常に多い。そのため、開発や販売に資金や人材をあまり投入できない。その結果、中途半端に終わるツールを山のように見てきた。