2009年の総選挙で、民主党は「税金の無駄遣い」や「官僚利権」の撲滅を公約に掲げて政権交代を果たした。

 その公約が全く果たされていないことを象徴するテーマがある。「外国人介護士・看護師」の受け入れ問題だ。

 外国人介護士らの受け入れは2008年、日本がアジア諸国などと結ぶ「経済連携協定(EPA)」に基づき始まった。これまでインドネシアとフィリピンから、介護士と看護師を合わせて約1400人が受け入れられている。それがなぜ「税金」や「官僚」と関係するのか、ピンとこない読者も多いだろう。新聞やテレビは、そんな話など全く取り上げないのだから無理もない。

 筆者は介護士らの受け入れが始まる以前から、日本国内の看護・介護現場や行政、政界に加え、送り出し国のインドネシアやフィリピンを訪れ取材を続けてきた。2009年には『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)という単行本を出版し、受け入れ制度の問題点をルポした。

 そこで強調したのは、現行制度下での受け入れが現場に全く役立たず、税金の無駄遣いや官僚利権の拡大のみを招いていることだ。

現場の状況と無関係に始まった外国人介護士の受け入れ

 そもそも、なぜ外国人介護士らの受け入れは始まったのか。受け入れを決断したのは小泉純一郎・元首相である。小泉氏は首相を務めていた2006年、交渉中だったEPAを有利に運ぶため、フィリピンからの求めに応じて受け入れを決めた。

 日本には産業廃棄物のフィリピンへの持ち出し、一方のフィリピン側には日本への出稼ぎ手段の確保という思惑があった。

 つまり、介護士らの受け入れとは、日本の看護・介護現場の状況とは全く無関係なところで始まったわけだ。

 翌2007年には、日本政府はインドネシアともEPAを通じての介護士らの受け入れに合意。この時点で、フィリピンとインドネシアから当初の2年間でそれぞれ1000人の看護師・介護士を受け入れることが決まった。