毎年、春に公表されてきた米国防総省の「中国軍事力レポート」が、今年はまだ公表されていない。米「ワシントン・タイムズ」紙のビル・ガーツ記者によれば、4月半ばの段階でホワイトハウスが公表に2カ月近く「待った」をかけているという(4月15日付 同紙記事より)。
この事実については前回の記事で触れた。今回は、その裏側の事情を少し詳しく紹介したい。
「中国軍事力レポート」の公表に待ったをかける法律とは
ホワイトハウスの中で、国防総省が今回まとめた「中国軍事力レポート」の公表に待ったをかけているのは、国家安全保障会議(NSC)である。中国の新型戦略ミサイル、通常型ミサイル、航空機、艦船や、その他ハイテク兵器の長年にわたる増強ぶりの詳細について新たに公表するのは「挑発的」だとしている。
NSCは、それに代わって米中の軍事協力に焦点を当てた記述を盛り込むよう求めているという。
なぜ今回、そんな事態が生じているのかと言えば、米国で2009年10月末に成立した「2010年度 国防授権法」のためだ。同法の条文は、PDFファイルで655ページにも及ぶ膨大なものであり、その中の「セクション1246」が問題の箇所である。
わずか2ページ足らずの同セクションには「中国に関わる軍事および安全保障動向に関する年次報告」という表題が付けられ、「年次報告に当該年度における米中の安全保障問題についての関与と協力を盛り込む」ことが規定されている。具体的には、米中の軍対軍の接触や将来に向けての米国の対中関与・協力戦略を含むものとなる。こうした内容規定は、以前の国防授権法には見られなかった。
ガーツが注目するのは、「国防授権法」がこのように中国への配慮をあらわにしてきたことと、中国によるロビー活動との関連である。
そこでガーツが取り上げているのが「三亜イニシアティブ」なのだ。ガーツによれば、2008年から開始された三亜イニシアティブによるロビー活動と、今回の「国防授権法」の改定の動きとが符合するという。
米中の軍の退役高官らが集う「三亜イニシアティブ」
「三亜イニシアティブ」とは一体何なのか。どのような組織なのか。日本ではこの「三亜イニシアティブ」に関する報道がほとんどないため、かなりの情報通でも知っている人は稀有だろう。自分がたまたま知らなかったのかと思い、周囲のチャイナ・ウオッチャーに尋ねてみたが、誰も知らなかった。