今の中国経済を考察すると、計画経済は完全に姿を消したわけではない。政府による市場への介入は産業によって依然続いている。ただし、中国経済に占める計画経済の割合は大きく縮小している。市場経済への移行が逆戻りすることは、すでに不可能であろう。

 計画経済はなぜ持続不可能なのだろうか。その最大の理由は、商品やサービスの価格が政府によって統制されているため、生産者は生産意欲が湧いてこないからである。

 30年前の中国では、商品やサービスの価格は政府による統制価格だった。計画経済の下、市場の需要や供給と関係なく政府によってコントロールされていた。

 それから「改革開放」政策が実行され、価格形成の方法が変わった。統制価格(平価)に、市場の需給関係によって決まる市場価格(議価)が加わった「双軌制」(ツートラックモデル)に移行したのである。

 双軌制が導入された結果、生産者に生産拡大のインセンティヴを付与する市場経済が計画経済を凌駕し、押しのけていった。その結果、1980年代半ばまで配給制が存続していたが、それ以降、順次姿を消した。要するに、お金さえあれば何でも買える時代になったのだ。

市場経済におけるインフレのメカニズム

 ただし、市場経済へ移行することによって新たな悩みが生まれた。それは計画経済の時代にほとんど経験したことのないインフレーションである。

 市場経済では、インフレが起きる原因は需要に対して供給が不足しているからだと思われている。しかし、実際はインフレの背景はもっと複雑である。

 まず、古典的なインフレのほとんどは「ディマンドプール型」のものと言われている。すなわち、需要が供給を上回って消費者の間でインフレ期待が強まり、明日買うよりも今日買った方が得であるという合理的な考え方のもとで買いだめに走る傾向が強まる。

 往々にしてその結果、市場がパニックになる。かつて日本でオイルショックの時、トイレットペーパーの買いだめが広がったことはその一例である。2011年の福島第一原発事故をきっかけに、中国や韓国で食塩を買いだめする群衆がパニックになったのも同様の例と言える。こうしたパニックは場合によって恐慌をもたらす可能性もある。

 インフレの2つ目のパターンは「コストプッシュ型」と言われている。すなわち、需要が供給を上回らなくても、商品を作る原材料の価格が上昇することによって商品の価格が上昇するだろうという疑念が強まることによって買いだめが一気に広がり、結果として商品価格が上昇してしまう。