今や自民党は豪華客船「タイタニック号」。いずれ沈む運命のようだ。それでも、「絶対沈まぬ」と信じて船内に残るか。それとも、新たな船に乗り換えるべきか。そう考えている間にも船体亀裂がどんどん深まり、船長・麻生太郎は操舵不能に陥りつつある。果たして、「自民離党―新党結成」に動くのは誰か。(敬称略)
まず、「反麻生」の急先鋒、元行政改革担当相・渡辺喜美の動きを見よう。
自民党の中堅・若手グループ「速やかな政策実現を求める有志議員の会」(発足時24人→48人)の中で、渡辺は圧倒的に選挙が強い。父のミッチーこと故美智雄副総理から地盤を完璧に受け継ぎ、衆院栃木3区は盤石。民主党はまだ対立候補を擁立できていない。
自民党中堅・若手から「麻生政権では選挙を戦えない」と悲鳴が上がっても、渡辺にはその心配がない。選挙が強ければ、恐れるものなし。無派閥だから、領袖におもねる必要もない。よく言えば政界の「一匹オオカミ」、悪く言えば「はぐれガラス」。地元の圧倒的な支持を背景に、最大限利用するテレビ番組で好き勝手に発言し、国民に存在感をアピールしている。
そもそも、渡辺には「麻生首相には公務員制度改革に取り組む姿勢が全く見えない」という不満があった。麻生は就任後初の記者会見で「官僚を使いこなす」と豪語。だが、渡辺は「官僚主導の政治が継続され、改革路線は後退する。逆に使いこなされる」と強い危機感を抱いた。事実、麻生は役所の言うことにほとんど逆らわず、「官僚の言いなり」とも指摘される。
国家公務員制度改革基本法に基づき、中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」の来年度設置について、渡辺は強硬に反対した。現状の案では、行革相時代に自ら手がけた公務員制度改革が役所主導で「骨抜き」にされると見たからだ。
「裸一貫型」で新党目指す渡辺?
12月8日付で発表された朝日22%、読売21%、毎日21%という3大紙の内閣支持率は、麻生政権が既に末期状態にあることを裏付けた。不支持率は朝日64%、読売67%、毎日58%と跳ね上がり、自民党内の「麻生離れ」が加速すると、渡辺の発言はますます過激になった。
同日の講演で、渡辺は麻生を退陣に追い込む案として「総裁リコール規定」適用や、「内閣不信任」「総理・総裁分離案」を提示。新党結成の方法に関しても「持ち株会社型」「協議離婚型」「裸一貫型」の3通りを示した。どれを選ぶかには言及しなかったものの、個々に離党した議員が新党に集まる「裸一貫型」を「覚悟だけでできる。非常にインパクトがあるし、大化けの可能性がある」と評価してみせ、自ら選択する可能性をにじませた。
これに対し、自民党の菅義偉選対副委員長が翌9日、「倒閣とか新党とか、政局運営を妨げる行動はいけない。同志として一緒にやれるか判断せざるを得ない時もある」と牽制した。「菅さんの言葉は効いた。次期衆院選の公認問題をちらつかせたことで、中堅・若手も及び腰になった」(閣僚経験者)から、「反麻生」の動きに一旦ブレーキが掛かった。
それでも、渡辺は「自民、民主両党が分裂し、理念と政策の一致した政治勢力の結集が望ましい」と政界再編の意欲満々だ。しかし、衆院選前に裸一貫で離党しても、現時点では同調議員がほとんどいないだろう。