世界を見わたすと、2012年に入ってから自動車の販売状況に明らかな動きが表れている。

 特にアメリカでは1月、2月と乗用車系製品の販売台数合計が前年比7~8%増となった(ただし「前年同月比」は「数字のマジック」を生みやすいのだが。前年同月の状況がどうだったかは「消えて」しまうので)。

 その内訳、特に2月の数字を見ると、ゼネラル・モーターズ(GM)がほぼ昨年並みなのを除いて、フォード・モーターがプラス16%、日産自動車がプラス16%、トヨタ自動車がプラス12%、ホンダがプラス12%。さらにヒュンダイ-キア・グループはプラス26%、クライスラーに至っては昨年実績が低かったこともあるが、プラス40%という活況を見せる。

 GMに関しては、インセンティブ(販売促進金)をあえて切り詰めたことが販売台数を伸ばすのにはマイナスに働いたが、採算面では良い方向に向かっている。公的資金の注入以後、開発組織の再構築、多くの生産現場の閉鎖や整理、海外移転などを進めたことで、2011年世界販売台数は902万5942台で「世界最大の自動車メーカー」の座も回復。キャッシュフローも含めて「安定」にシフトし、その資金面の裏付けからPSAプジョーシトロエンとの協業を決めて株式も取得した。そういう状況なので、今は短期的販売量の前年比増減をあまり気にする必要はない。このあたりが「前年同月比」の表面的な数字を見て語るだけでは、現実に動いている事象が見えない、というリアルな例である。

 いずれにしてもアメリカでは、リーマン・ショック以来3年半続いた抑制の暮らしに飽き、「消費したい」といういかにもアメリカらしい欲望がジワジワと高まり、経済環境の好転が、財布のヒモを緩めてもいいかな、という社会的「気分」を醸成しつつある、ということだろう。

 一方、先進国市場が停滞したこの何年か世界の消費の「動力源」となっていた中国だったが、2011年はその急激な膨張にブレーキがかかり、政府も引き締めに転じている。しかし2月の販売台数は前年比26.5%増となった。まだまだ消費意欲が旺盛な市場なのである。

 そしてもう一極の欧州、特に西ヨーロッパ諸国での乗用車販売は、2011年も10月頃までは堅調を保っていたものの、この1月は前年比マイナス7%、2月は同マイナス11.4%と落ち込みを見せている。もちろん、「富める国」と「富まざる国」のアンバランスが顕在化してマクロ経済が混乱したことが人々の一般消費にも表れた、と解釈できる。ドイツを先頭に欧州経済を引っ張っている国々では、消費そのものは簡単に沸騰したり、減速したりはしないし、そこに消費財としての自動車を送り出す企業も、より長期的なスタンスでそれぞれの「ものづくり」に取り組んでいる。

日本の自動車メーカーの「今」

 そうした中で日本は、ただひたすら沈滞の中に浸っている。経済活動と社会的気分の両方が沈み込んだまま、鬱々と暮らす日々から抜け出す気配がない。

 為替レートも株価も、日本の経済の、そしてそれを支える産業の実力を反映したものではなく、とりあえず他よりは安定している通貨として「買い」が集まっているだけだったり、その為替レートの動きを見ながら短期的な思惑で株取引が動く、という状況である。

 いずれ遠からずアメリカが、あるいは中国が、その他の途上国・地域が、そしてヨーロッパが、それぞれの足場を固めて産業と経済を活性化させてくることは確実だ。もちろんその興隆の仕方とタイミングは一様ではないと見ていい。しかし世界のものづくり産業とそれが作り出す消費経済が「元気になる」時を迎えても日本がこのままだと、為替も株も一気に低落して、世界の経済から取り残されてしまう可能性は、現状を見る限り決して小さなものではない。