「あれもできない、これもだめ、もういい加減にしてほしい!」というのが筆者を含む上海在住者の偽らざる気持ちだ。上海市民は今、この「規制」との闘いに辟易している。

 「洗濯物が干してある、やっぱり上海人はルールを守らないんだな」と日本人観光客がつぶやく。パジャマ姿で歩くべからず、歩きタバコはすべからず・・・、万博開催を前に上海でマナー向上のための取り組みがなされてきたことは、多くの日本人観光客が知るところでもある。

 4月下旬に至るまでほとんど晴れ間を仰ぐことのなかった上海市民にとって、今、太陽の日差しほどありがたいものはない。窓から外に向けて物干し竿を思い切り突き出したい(上海では窓から直角にして干す)気分だが、万博会場周辺の住宅地では「美観を損ねる」ことを理由に、それが制限されている。

 市民の1人はこう語る。「洗濯物を干すな、とは度が過ぎる要求だ」

 背に腹は代えられないというのが市民の率直な心情だ。

道路はどこもかしこも封鎖と規制

 4月30日、開幕式まであと数時間足らずとなった外灘(ワイタン:上海市の中心部にある観光地区)には、「10万発の打ち上げ花火」(北京に対する上海の対抗心の表れか、北京五輪よりも2万発多い)を見ようと多くの市民が繰り出そうとしていた。が、外灘に沿って南北に走る中山東一路が突然、封鎖された。夕方の帰宅客を乗せた公共バスからタクシー、自家用車が足止めを食らった。

 クルマから降りてリンゴをかじり始めるタクシーの運転手、「かれこれ40分だ。商売にならない」と嘆く。バス停でも「いつになったら乗れるのよ!」と路上の警備員に食ってかかる女性の姿があった。しばらくして、要人を乗せた黒塗りの乗用車とワゴン車が数台、クラクションとブーイングをよそに道を通り抜けていった。

 5月1日だけで1381人の来賓を迎えた上海。いつの間にか上海万博は中央政府の「外交」「接待」の舞台にすり替わり、要人を迎えるたびに道路が封鎖される。「また、封鎖だ!」と頭を抱える運転手。通勤客や観光客のスケジュールを見事に狂わせる、恐るべき地雷は市内混乱の元凶でもある。

 こうした交通規制が特に厳しいのが、万博会場付近の道路(浦東南路)だ。朝7時から夜9時まで封鎖、一時的に封鎖が解除されても、道路に車を横づけすることすら困難だ。どこからともなく係員が飛んできて、「さっさと離れろ」と一喝される。

 一方、付近の住民は特別な許可書を発行してもらうことで、かろうじて通行が許される状況となっている。日本のメディアでも繰り返し放映された4月下旬の万博リハーサル、優先的に招待されたのは、他でもないこの近隣住民だった。