上海万博に合わせて、もう1つ「博覧会」が計画されていたことをご存じだろうか。日本ではあまり大きく報じられていないが、上海市当局による人権侵害を告発する「冤罪博覧会(冤假错案博览会)」がそれだ。4月12日からネットとツイッター上で始まっている。
もちろん、公式の博覧会ではない。主宰者は上海在住の人権活動家・馮正虎。同市の司法機関による人権侵害の具体例を、自らの経験とともに淡々と語っている。今回は、この馮正虎の活動から見えてくる中国の「人権問題」について考えてみたい。(文中敬称略)
成田空港で3カ月篭城した男
日本で馮正虎という名前を知る人は少ない。しかし、昨年(2009年)11月4日から92日間、成田空港の制限エリア内で寝泊まりを続けた中国人と言えば、覚えている人も多いだろう。
馮は2009年6月以降8度も上海の入国管理局から再入国を拒否された「筋金入り」の活動家である。
馮正虎は1954年生まれで筆者と同世代。上海の復旦大学で学び、上海財経大学で教えていたエコノミストだ。天安門事件の際に政府を批判して当局から目をつけられたらしい。1990年代には日本に留学したが、帰国後の2000年には違法営業活動の罪で逮捕され、3年間服役している。
2004年の出所後も、上海市再開発で強制立ち退きを迫られた住民のため訴訟手続きなどを支援している。精力的な活動を続ける同氏のツイッター(ただし、中国語のみ)には、現在2万人以上のフォローがある。
もちろん、現在中華人民共和国内でツイッターはご法度だ。馮をフォローする者の多くは外国人だろう。それにしても、この馮正虎が、こともあろうに「冤罪博覧会」を始めるというのだから、中国当局も当惑したに違いない。
執拗な当局による監視
本年2月12日にようやく帰国を許されてから1カ月もしないうちに、馮正虎は再び当局の監視下に置かれるようになる。報道によれば、3月に入り、馮には5人体制・1日24時間の監視・尾行がつくようになったそうだ。
さらに、「冤罪博覧会」を始めて1週間後の4月20日未明には4時間にわたって身柄が拘束され、自宅にあった4台のコンピューターなどが没収されたという。報道によれば中国当局は馮に対し、もし上海万博中に(政治的な)発言をすれば、他の活動家と同様「行方不明」にしてやる、と警告したそうだ。