「上場すれば値上がり確実」とうたい、高齢者などから多額の現金をだまし取る未公開株商法の被害が急増している。遅まきながら関係当局も対策に本腰を入れ始めたが、刑事事件としての立件や被害救済は容易ではない。早くも法規制の強化論が台頭しているが、まっとうな新興企業の資金調達機会を奪いかねない危険性もはらむだけに慎重な検討が必要だ。

振り込め詐欺からトラバーユ

 未公開株とは、証券取引所に上場していない企業の株式。創業者やその親族、社員、取引先など保有しているのは一部の利害関係者に限られる。相対(あいたい)取引での売買は可能だが、発行企業が第三者への譲渡を制限している例も多い。この場合は仮に本物の未公開株を入手しても発行会社に株主とは認めてもらえないので、注意が必要だ。

 1999~2000年のIT株ブームや、2004~05年のバイオ株ブームでは、大量の新興企業が上場を果たした。この時、売り出し価格よりも大幅に高い上場初値を付ける企業が相次ぎ、「新規上場株は儲かる」という認識が投資家に浸透。「少しでも老後の資金を増やしたい」という高齢者の心理につけ込む形で、未公開株詐欺が広がり始めた。

 公開・未公開を問わず、株の売買を仲介できるのは金融庁・財務局に登録している証券会社に限定される。しかし、未公開株勧誘を手掛ける業者の大半が無登録業者だ。宇宙開発や、IT、バイオ、福祉といった時流に乗っているように見える企業の上場が近いと持ち掛け、代金を振り込ませるのが基本的なパターンだ。

 日本証券業協会が未公開株の合法的な売買の場として設けているグリーンシート市場の銘柄でない限り、証券会社各社は未公開株の販売勧誘を原則として行わないことを申し合わせている。

携帯電話と銀行口座と演技力。振り込め詐欺も未公開株詐欺も、商売道具は同じだ

 国民生活センターに寄せられた未公開株被害に関する相談件数は、2007年度にいったん減少に転じた。金融庁などの注意喚起が奏功したとみられる。しかし、2008年度から再び増え始め、2009年度は過去最大の5604件と前年度を83%も上回っている。被害者の7割以上が60歳以上だ。

 急増の背景には、振り込め詐欺救済法の制定があるようだ。規制強化で食い扶持を失った振り込め詐欺の犯罪集団が、携帯電話と銀行口座という同じ「商売道具」で商える分野に流入してきたのだ。ニセ警官やニセ弁護士など複数の人間がグルになって1人の高齢者をだます劇場型と呼ばれる手口が応用できるのも、彼らにとっては魅力的な転職先と映ったのだろう。