「ステキなタイミング」。かつて数十年前に一世を風靡した、坂本九が歌った流行歌のタイトルです。このタイトルこそが、生産管理の一番大切な所を突いています。

 早く作ってしまうと在庫になります。遅れると欠品になります。要はタイミングなのです。日産自動車ではこの大切さを関係者に訴えるために、一般的な「Q・C・D」という言葉を使わずに「Q・C・T(タイミング)」と言っています。

 本流トヨタ方式ではこのタイミングに関する用語がいくつかあります。さらなる在庫低減や、作業改善のやり方について理解していただくためには、今このタイミングで、それらの用語と、その裏にある考え方について理解してもらう必要があります。

 登場する用語は(1)ジャストインタイム、(2)タクトタイム、(3)サイクルタイム、(4)リードタイムです。今回は、(1)(2)(3)について説明します。

(1)ジャストインタイム(Just In Time、通称「JIT」)

 これは本流トヨタ方式の最も基本となるコンセプトです。大変幅が広く、また奥が深いコンセプトです。それゆえ今後、繰り返し多面的に説明していきますが、ここではその導入部分として、概要を説明します。

 「かんばん方式」のヒントになったと言われるスーパーマーケットを舞台に説明しましょう。ここでは、「鉄火巻き」「にぎり寿司」などをパックにして、カウンターに10パックずつ並べて売っている寿司売り場を想像して下さい。

 10時開店から20時閉店までの10時間に、鉄火巻きが平均で60パック売れているとします。売れた分を作って補充しており、いつ見てもある幅で(例えば5~10パックの間で)管理されている状態であれば、「ジャストインタイムに後補充がされている」と言います。

この時の「タイム」は、時計で示された時刻ではありません。お客が5パック目を買うというタイミングなのです。このタイミングに間に合わせて作って補充する。これがジャストインタイム本来の意味なのです。

 「ジャストインタイムは平準化が前提である」と教えている先生もいますが、それは言い間違いです。「後工程(お客)が平準化して引いて(買って)くれれば、安い費用でジャストインタイムを実現できる」というのが正しい表現なのです。

 実際には、スーパーで買い物をする客は、時計を見ながら10分ごとに1パック買うなんてことはあり得ません。かなり大きくバラツキが出ます。だからこそ「売れる速さで作る」ことが大切なのです。

 ここまででもうお分かりのように、「在庫(投入資金量)を最少にするように努力し続けること」が、ジャストインタイムの目的です。スーパーのようなお店では、店頭に数個しかないと「売れ残り」に見えてしまい売れなくなってしまうというのが常識です。そのため、常に5~10パックの在庫にする必要があります。しかし工場の中ならば、もっと少ない在庫に挑戦しなければなりません。