毎年3月に開催される全国人民代表大会(全人代:中国の国会に相当)が終わった。全人代といえば、いつも話題になるのが開幕直前に発表される国防予算だ。

 今回もやはり注目されたものの、発表されたのは予想外の数字だった。

 全人代開幕日の前日である3月4日、全人代のスポークスマンを務める李肇星前外交部長(外相)は記者会見で、国防予算案が5321億1500万元(約6兆9000億円)で、前年実績比7.5%増になると明らかにした。

国防予算比の伸び率が大幅に低下した理由は?

 中国の国防予算は、1989年から毎年2桁の上昇を記録してきた。2008年度が17.6%、2009年度が15.3%増であったことと比べれば、大幅な伸び率の低下であり、今回は21年ぶりに1桁に抑えられたことになる。

 ただし、これだけを見て中国が軍事力増強を抑制する方向に転じたと判断するのは早計だ。

 前年実績比では1桁の伸びにとどまっているが、2009年度予算との対比では10.7%増となり、予算比で見れば22年連続の2桁増となる。さらに、中国の国防費は予算に比べ実績が上回るのが通例だから、1年経ってみたら、やはり前年実績比2桁増だったということは大いにあり得る。

 しかしながら、なぜ2010年度国防予算の伸びを1桁に抑えたのかは検討する意味がある。

 このあたりを外部が納得するよう中国当局が詳しく説明してくれていれば、詮索をする必要もないのだが、なにしろ中国の国防予算は「不透明性」のシンボルのような存在である。外部がまともに把握できるのは公表された金額と前年比伸び率しかない。これだけが中国政府の公式メッセージだとすれば、そこから内実を読み取り、疑わしい点を整理しておく必要がある。

内訳がまったく見えてこない国防費

 中国の国防費の不透明性については、これまでも頻繁に議論されてきており、言うなれば食傷気味のテーマである。だから、ここではおさらい程度にとどめたいのだが、何が問題点なのかははっきりさせておきたい。

 中国のために弁明すれば、中国自身が国防費の内訳を説明した事実はある。中国国務院新聞弁公室が隔年で発表している「中国の国防」(国防白書に相当)の最新版(2008年版)によれば、国防費の内訳は3つに分類される。

 その分類とは、(1)兵員の生活費(給与、衣食など)、(2)訓練の維持費(部隊訓練、教育など)、(3)装備費(兵器装備の開発、実験、調達、保守など)であり、それぞれで予算がほぼ3等分されている。

 こうした国防費の用途分類は常識的なものであり、構成比もさほど違和感を与えるものではない。しかし、説明されているのはこの程度でとどまっており、それだけでは中国が国防費を実際にどのように使っているのかという実態が見えてこない。