差別発言を巡りサッカー界が揺れている。イングランド・プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、と問題が次々と明るみになる中、コメントを求められたジョセフ・ゼップ・ブラッターFIFA(国際サッカー連盟)会長が、差別を容認する発言をしたというのである。
人種や宗教上のちょっとした発言でも問題になる世界
「(ピッチには)人種差別はない。不適切な言動やジェスチャーはあるかもしれないが、これはゲーム、握手(して受け流)すべき」と発言したことが物議をかもしているのだ。
世界中から多種多様なバックグラウンドを持つ選手たちが集まる欧州プロリーグや国際試合では、本人が意図するしないにかかわらず、人種や宗教といったことへのちょっとした一言が問題となってしまう。
2006年のドイツ・ワールドカップで、大会後の引退を表明していたジネディーヌ・ジダン選手が、決勝戦のさなかイタリアのマルコ・マテラツィ選手から浴びせられた言葉に激高、頭突きをくらわせ退場となったのがいい例だ。
実際にどんなやりとりがあったのか当事者以外知る由もないが、それが差別的なものだったと言われれば、ジダンがアルジェリア(ベルベル人)移民2世でありイスラム教徒であることが関係している、と誰しも思うほどに、ピッチには差別の種が満ちている。
しかし、いつの時代でも、そしてどんなスポーツにも、挑発はつきものだ。そう言って思い出されるのが、ボクシング元ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリ。ボクシングに興味はなくとも、その挑発的な発言なら覚えている、という人も多いのではないだろうか。
権威や白人のみならず黒人にも向けられた非難の矛先
アリといえばベトナム戦争への徴兵を拒否し、黒人の権利向上を訴え続けたことで知られ、そのことはウィル・スミスがアリを演じた映画『ALI アリ』(2001)で半ば英雄的に描かれている。
しかし、罵倒を繰り返す非難の矛先は、権威や白人のみならず、同じ虐げられた側にいるはずの黒人にも向けられていた。
その洗礼をまともに受けてしまったのが、先日他界した「スモーキン・ジョー」フレージャー。アリが初めて白星を献上した相手である。
「白人の手先」「奴隷」「アンクル・トム」などとまくしたてるアリに対し、さすがにFIFA会長の言うようには聞き流すこともできず、言い返してはいたのだが、黒人としての自尊心を随分と傷つけられたようである。