今回は、本流トヨタ方式の哲学の1つ「現地現物」に関して、「鶏が先か、卵が先か」の因果関係の捉え方で事態は一変するということをお話しします。「本流トヨタ方式」と世間常識との違いが一番ここに表れるからです。

 日本語はとても自由度が大きい言語です。 「MILK」を「牛乳」と訳すと牛乳瓶に入った状態を表し、「ミルク」と訳すとグラスに入った状態を表し、米飯を「ごはん」と言えば茶碗に盛った状態を表し、「ライス」と言えば西洋皿に盛った状態を示します。

 第2次世界大戦では、ドイツは「敗戦」して占領軍に支配され、日本は「終戦」して「進駐軍」の指示の下に入ったと使い分けられています。

 満州から命からがらに引き揚げてきた叔母は、「関東軍は、日本人を置き去りにして一目散に逃げた」と言います。伯父の知人である旧関東軍将校は、「本土決戦のために名誉ある撤退をしたのだ」と言っています。

 言葉で責任をぼかすのは霞が関の常套手段であると、元経産省の古賀茂明氏が著書『日本中枢の崩壊』の中で述べています。

 「上の好むところ、下これよりも甚だし」という言葉があります。中央政府の「説明を言葉で惑わす」という風潮は、下々の末端まで行き渡っています。

検査員を1人つけたことで満足している課長

 工場の現場の中にも、耳に心地よい言い回しが横行し、真実と乖離している場面が大変多いのが実情です。

 よく現場で課長が、「品質を確保するために、ここに検査工程を入れ、検査員を1人つけています」と胸を張って言う場合があります。おそらく納入先からクレームが来て、その対策としての検査工程を設置したのでしょう。その説明で納入先は納得し、上司も納得したので、本人は良いことをしたと信じているのです。

 筆者は「本流トヨタ方式」の立場からその課長に「具体的に何をどう検査するのですか?」「合格か否かの基準はどれですか?」「不良が見つかったらどんなアクションを取るのですか?」と聞くことにしています。すると、多くの場合、課長はキョトンとします。

 「検査工程をつけた」という言葉の説明で今まで皆さんが納得してくれていたのに、何が不足だ・・・という顔をします。課長自身も自分の言葉に騙されているのです。

 「検査するというのは、不良品として跳ね出すことです。作業員としては勇気が要る行動だから、自信を持って判定できるゲージ類を持たせなければいけません」