今年、日本の自動車産業にとって最優先して取り組むべきものは何か。
それは前回も簡単に触れたように、これまでにないほどまで基本に立ち戻った自動車技術全体を俯瞰したビジョンの構築と、それを踏まえた技術開発である、と私は考えている。
その中では、自動車の機能から生産まであらゆる技術要素を対象にすべきだし、現状を肯定することなく新しい仕組みを描き出す必要がある。
それも、今も作っている製品群と同様のものを、より安く、大量に作ることを目的にするのではなく。巷間言われている、この経済危機の中での即応策とはまったく違う方向、ということになる。
不況が底を打った時の世界にどう対応するか
その、一般的な考え方に沿った「定石論」は、以下のようなものになるだろう。
まず、世界バブル崩壊から続く不況はまだ続き、既存市場の販売も早々の回復は期待できない。その一方で、中国、インドなどの自動車産業新興地域は需要拡大と、それらの国々で生まれつつある廉価な製品への対応も急がれる。
こういう表面的なシナリオに沿って、まずは何度となく繰り返されてきた方策、すなわち「さらなる原価低減」が掲げられている。「投資の抑制」と「利益の確保」もセットにして、となるわけだが。
しかし、そういう数字の世界の当然の対策だけでは、この不況の先に現れる新しい状況には対応できない。
不況が「底を打ち」、世界が安定した消費に向かって動き出す時はいずれ来る。2年後か、3年後か。その時に、今ある製品群と同じようなものをお化粧直しして「新たな商品性」を付け加えて送り出せば、これまでのように顧客を獲得できるだろうか? 自動車を走らせ、使う人々や社会の意識は、今のまま変化しないのだろうか?
少なくとも「地球温暖化抑制(防止、ではない)」への意識は格段に高まるだろう。つまり燃費の良いクルマが世界的に求められる。それも実際に走らせ、使う中で消費する燃料(=排出するCO2の量)を減らすことが。
しかし同時に、それ以外の環境負荷も減らし、そして実際に移動するために使う空間としての資質も高めなければ、次の時代の自動車として認めてはもらえない。
なぜならば、これまでの10年以上にわたる世界バブルの中で、見た目には新しさを強調する商品(クルマ)を競って買ってはみたものの、実際に乗って走らせてみると「前のものより良くなった」という実感はない、という体験を繰り返してきたことで、「どれもたいして違わないじゃないか」と醒めてしまったユーザーが、日本だけでなく世界で増殖しているのである。