中国で、バスに乗ってもスーパーに行っても、人々の会話を聞くと最もホットな話題はマイホームを買うための情報交換である。

 十数年前から中国政府系の研究者は、メディアで「居者有其屋」(住むならマイホームだ)と豪語し、不動産開発と不動産購入のブームに火をつけた。

 他の国では(先進国でも)考えられないことだが、大学を卒業したばかりの中国の若者はみんなマンションを買おうとする。ちなみに、大学新卒の年収は約2万~3万元程度(約30万~45万円)。それに対して都市部の新築マンションは、80万~120万元(1200万~1400万円)もする。

 年収の20倍以上ものマイホームを購入しようとする考え方は一般的にあり得ない。国際的な経験則では、マイホームの値段は年収の6倍程度が上限の水準と考えられている。なぜ中国人はこんなにもマイホームを持ちたがるのだろうか。

かつてマイホームの購入は想像できないことだった

 そもそも都市部の中国人は最初からマイホームの夢を見たわけではない。かつての計画経済の時代は、住宅が計画的に分配されていた。

 家族形成と勤続年数によってその広さは決まっていた。形式上は国有企業との賃貸関係になるが、家賃は低く抑えられ、そのほとんどは国有企業が負担していた。換言すれば、当時、住宅の分配は国有企業の福利厚生の一環だった。

 1993年から、中国政府は社会主義独自の市場経済の構築を明らかにし、国有企業も利益追求の会社に転換した。そのために、国有企業が担っていた住宅の分配を含む、社会の福利厚生機能のほとんどが切り離され、払い下げられたり、民営化されたりした。

 すでに分配された住宅は使用年数に応じて償却し、従業員に払い下げされた。それ以降、従業員の住宅は、市場で借りるか、購入するものになった。国有企業の会社化の改革は、いわば「住宅市場」出現の始まりだった。

 95年、世界銀行の資金援助で「経済政策としての住宅開発に関するカンファレンス」が上海で開かれた。筆者もこのカンファレンスに招待され、参加した。当時、中国側の参加者のほとんどはカンファレンスの意味を理解できなかったように思う。当時の中国では、マイホームの購入は想像できないことだった。

中国では、なぜ賃貸マーケットが発展しないのか

 98年になると、国有企業の株式会社化の改革が行われた。それをきっかけに、中国人は初めて勤め先から住宅が分配されないことを実感し、自らが住宅を購入することを考えるようになった。

 さて、本来ならば開発途上の中国において、健全な住宅市場を発展させるためには、約6割の家庭が住宅を借りて、残りの4割がマイホームを購入できるようにするのが望ましい。しかし、現在は75%の家庭がマイホームを購入しようとしており、賃貸マーケットは発展が遅れている。