懸案だった米国の台湾向け兵器供与問題にどうやら結論が出た。9月21日にオバマ政権が議会に通告した内容は、台湾が民進党政権の時代の2006年から米国に要請していた「F-16 C/D型」戦闘機66機を「却下」、それに代わって既存の「F-16 A/B型」戦闘機145機のレーダーや兵装のアップグレードを行うというものである。だいぶ以前から予想されていたとおりの結果となった。
これだけ見ると、オバマ政権は中国の怒りを買うのを恐れ、中国が怒りを我慢できるぎりぎりの選択をしたように見える。
実際、そのとおりの部分もある。2011年の5月と7月に行われた米中軍事交流の成果を台無しにせず、米中の深刻な対立を回避するため、C/D型の新規供与を却下し、既存のA/B型のアップグレードにとどめる判断をしたのだろう。
3者ゲームの「勝者」は本当に中国なのか
5月に訪米した中国人民解放軍の陳炳徳総参謀長は、記者会見で米国の台湾への兵器供与が米中軍事関係に与える影響を問われ、「影響はある。ただし、その影響がどの程度ひどいものになるかは、台湾に売却される兵器の性質による」と含みを持たせた。
オバマ政権は、既存のA/B型のアップグレードなら中国にとって「許容範囲」としたものと考えることができる。そうだとすれば、米中台の3者ゲームでの「勝者」は中国ということになる。
台湾がC/D型66機の供与を米国に求めてきたのは、すでに30年以上使用してきた「F-5」戦闘機が老朽化し、退役せざるを得なくなっているからであり、その戦力の低下を補い、さらに近代化著しい中国の空軍力に対抗するためであった。そのC/D型供与が却下されたとなれば、台湾は中国に対し、より深刻な航空戦力の数的劣勢を強いられることになる。
米国防総省も、台湾海峡における中台の航空戦力のバランスについて調査し、台湾の航空戦力の老朽化によって台湾側の脆弱性が増大しつつあることを報告書にまとめたが、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)が中国に気兼ねし、その公表を差し止めてきたとされている。
オバマ政権にしても、米議会の上下院の半数近い超党派の議員が台湾へのC/D型売却をプッシュしてきた中で、その圧力に抗してそれを却下したのだから、議会から「対中弱腰外交」と批判されても仕方がない。これを推進した議員たちにとって、台湾へのC/D型の新規供与は87億ドルの収入と約2万人の雇用創出になると見積もられたことから、来年に控えた選挙対策としても重要なイシューだったのだ。