民主党は衆院選マニフェストに、「緊密で対等な日米関係を築く」「日本外交の基盤として緊密で対等な日米同盟関係をつくるため、主体的な外交戦略を構築した上で、米国と役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす」と書いた。ポイントは「対等」の2文字である。その一方で、東アジア外交についてマニフェストは、「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」「中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げる」としている。50周年を来年迎える日米安全保障条約(日米同盟)を日本外交の基盤に引き続き据えつつも、米国追随から日米対等へと日本の外交姿勢をできる限り修正した上で、中国を中心とする東アジア諸国との関係をより緊密化していきたい、というのが民主党の狙いだろう。言い換えると、太平洋の東側(米国)寄りから西側(中国)寄りへと、日本外交の中心点をファインチューニングしたい、ということである。

 だが、国際政治の現実は厳しい。上記の外交方針を掲げて発足した鳩山政権に対して、米国の政府当局者や知識人などから警戒や憂慮の声が上がったのは、考えてみれば当然のことであろう。米国の視点からすると、民主党マニフェストに書かれたのは「米国離れ」の試みにほかならない。鳩山由紀夫政権が米軍普天間基地移設問題をオバマ大統領訪日までに決着させることができず、年内決着にさえ黄信号が点ることになっている現状に、米国は苛立っているという。

 引き続き世界一の経済大国であり、政治・軍事面で圧倒的な存在感を誇示している米国。市場経済の導入に成功して高度経済成長を遂げ、来年には日本を抜いて世界第2位の経済大国に浮上することが確実となっており、軍事面でも存在感を着実に増している中国。日本は地理的に米国と中国の間に位置しているため、日本外交は中長期的に見た場合、軸足の取り方が非常に難しい。ちょうど、欧州大陸と米国に挟まれている英国のようなポジションだと考えられる。英国は欧州連合(EU)の一員でありながら統一通貨ユーロを採用しようとしておらず、米国との同盟をイラク戦争などで重視した。純粋に仮定の話として、米国と中国の関係が遠い将来に悪化する場合、米国と中国のどちらに肩入れするのかという厳しい選択を日本が迫られる可能性が潜在している。

 むろん、日本は今のところはまだ、政治・軍事面では米国を最も重要視する一方、経済面では経済が伸び盛りの中国などアジア諸国の需要取り込みに注力するという、一種の「使い分け」を行うことができている。

 米国の姿勢も、実は現状、そのような「使い分け」になっている。今年1月のオバマ政権発足後、ヒラリー・クリントン国務長官がまず日本を訪れる一方、ガイトナー財務長官は日本に立ち寄らず、米国債の最大の買い手である中国を最初に訪れるという動きがあった。ガイトナー長官が就任後に日本を初めて訪れたのは、ようやく11月になってからである。