約30年続いた独裁政権が崩壊して半年余り、ホスニー・ムバラク・エジプト前大統領の公判が始まった。しかし、テレビのニュース映像に映し出された鉄格子の向こうに横たわる独裁者の姿はあまりにも弱々しく、我が目を疑った方も多いのではないだろうか。
老境に達した女性たちの猛烈パワー
83歳と高齢で在任時から重病の噂は流れていたとはいえ、騒乱中もポイントポイントで矍鑠(かくしゃく)とした演説を行ってきていただけに、人間、張りをなくすとわずかな年月でこんなになってしまうのか、と愕然とさせられるものだった。
一方、現在劇場公開中の『デンデラ』(2011)に登場する既に老境に達した(失礼!)女優たちのパワーは全開である。
女性の方が元気、という世相を反映したものにも思えるが、この映画は姥捨山に捨てられた恨みを晴らそうと執念を燃やす女性たちの復讐劇。
食糧供給などの問題から、共同体が生活していけなくなることを防ごうと、老齢(この場合70歳)もしくは非生産的な状態になった女性を人里離れた地に置き去りにするという、いわば人口調節のための口減らしの風習の犠牲者の物語である。
30歳になると「再生」すると信じ込まされ、合法的に抹殺されてしまうという『2300年未来への旅』(1976)に描かれた口減らしのディストピア世界は、SFの定番プロットの1つである。
30歳以上の人々がいない世界
この映画では、「非合法に」長生きし、隠れ住んでいた老人に遭遇することで、初めて住民たちは老いや死とは何たるかを知ることになる。
そんな姿には、核家族化が進み、さらに「個」という単位にまでなって暮らしている現代社会で、高齢者と同居することもなく、老いや死というものを身近に感じえない現実と通じるものがある。
できれば見たくないそうした部分を国家や企業、病院、福祉施設などに代替させてしまおうというのが今の世界の流れだが、そんな状況が、この人間としての根本的な問題を世代間で共有しにくくさせている。
また、そうなると当然のごとく経済論理が働くから、どこかに切り捨てられる一線というものが引かれることになる。