革命的な選挙を経て、戦後初の本格的な政権交代が成し遂げられた。ただ、革命的とはいえ、政治体制が転覆する革命そのものではないので、そこに熱狂は見られない。共産主義政党に支配されていた国民が、民主主義政党による統治を求めて立ち上がったというのとはわけが違うのだ。

 今回、国民は自民党ではない選択をしただけであり、ある意味、むしろ冷めている。永遠に政権を担ってもらうつもりで民主党を選んだわけではないのである。

 それでも国民は初めて「選んだ」。この事実だけは確かだ。そしてその意味は大きい。だから革命ではないものの、私たちの身の回りに初めて起こった大事件であることには違いない。

 その点では、全国各地で非自民という選択がされる中、ほとんど風が吹かなかった都道府県も珍しいだろう。私の住む山口県である。以下のように全部で4区あるうちの3区が、自民党前職の圧倒的な勝利に終わった。

【山口県の小選挙区当選者】

第1区  高村 正彦(自民党)
第2区  平岡 秀夫(民主党)
第3区  河村 建夫(自民党)
第4区  安倍 晋三(自民党)

 自民党の候補者は大物ぞろいだから仕方ないとはいえ、それでも他の都道府県ではそうした大物たちが象徴的な敗北を喫しているのだ。山口県で民主党が勝てなかった原因について、地元の新聞記者たちは候補者の魅力不足を指摘する。

 当選した民主党候補者を全国的に見てみると、どうやら有権者は「民主党」というカンバンだけではなく、魅力ある新人、いわば魅力ある「素人」を求めた結果と言えそうだ。

素人が素人を求めた選挙

 今回は、この政権交代の本質を哲学の視点から考えてみたい。それは、いったい何が交代したのかを分析することで見えてくる。

 言うまでもなく、最大の交代は与党が自民党から民主党に代わったことである。そのことによって、官僚主導から政治主導へ、政治家本位から市民本位の政治に代わることが期待されている。選ばれた人間という視点から見ると、プロの政治家から素人へという言い方もできるだろう。

 また、選挙運動についても、対面式からインターネット利用へという大きな変化があった。各党や各候補者がネット上でマニフェストを発表し、それが有権者にとって大きな判断材料となった。有権者がわざわざ演説会場に行かなくてもよくなったのだ。

 以上を総括すると、どうも今回の変化においては、「素人」という言葉がキーワードになっているように思われる。素人が素人を求めたのが今回の選挙だったのである。

 念のため言っておくが、素人が悪いと言いたいのでもなければ、馬鹿にしているわけでもない。むしろ反対である。これまでの政治はあまりにも玄人のためのものに偏りすぎていた。