ふとしたきっかけで数年前から時々のぞくようになった「大学という斜陽産業」というブログがある。オーナーは某私立大学の教授sphinx氏。ご本人にどういう意図があるのか定かではないが、緩い筆致で淡々と綴られる日々の出来事や取り留めのない所感からは、学生時代には知る由もなかった最高学府の舞台裏を垣間見ることができる。

 大きな野心もなければ、これといった不満もなさそうなサラリーマン教授のsphinx先生にとって、最大の関心事は毎年の入学試験の結果である。所属学部の入学者が無事に予定数に達すれば胸を撫で下ろし、合格者の歩留まりの読みが外れて目標ラインを下回ると聞けば気もそぞろになる。入試の目的を、氏は「食い扶持の確保」と言ってはばからない。

 全国の私大の帰属収入総額(借入金などを除く)はざっと3.2兆円。このうち、民間企業の売り上げに当たる受験料や入学金、授業料といった学生納付金は4分の3を占める(次が補助金で約1割)。

54歳父が20歳の息子の替え玉で受験、奈良県

受験生争奪、二極化する大学業界(参考写真)〔AFPBB News

 大学業界でも売上高が落ち込めば、学校法人の消費支出の5割強に上る人件費を削らざるを得ない。新入生の確保はその後4年間の収入に影響を及ぼすだけに、関係者が入試の行方に気を揉むのも無理からぬ話だ。

 sphinx氏によれば、入学定員という言葉には2種類の定義がある。1つは表向きのもので、文字通りの募集人員数。文部科学省への認可申請や変更届け出が必要なことから、業界用語で「文科省定員」と呼ぶらしい。

 もう1つは、大学運営上の財政的な観点から求められる定員だ。ある日のブログでのコメントに曰く、「目標定員とか予算定員とか言われ、文科省定員の1.1倍とか1.2倍という形で設定される。もちろん、対外的には文科省定員を確保していれば体面は保てるのだが、学内的には、目標定員を確保できないと上から色々言われるのである」

 幸いにも彼の学部は今春、「文科省定員を1割弱超えた程度」の新入生、つまり財源を確保することができた。定員超過も度を過ぎる(=1.3倍以上)と補助金不交付の対象となることを考えれば、まず申し分のない結果だ。

 大学業界の関係者に言わせると、sphinx氏の勤務先のように目標定員を云々できる私大は、今やかなりましな部類に入る。少子化が進行した中、学生という名の「消費者」に見限られ、文科省定員すら満たせなくなった大学が各地で続出。募集停止や廃校に追い込まれるケースすら出始めているからだ。

4年制私大265校が定員割れ、大学の二極化が鮮明に

 日本には今、773校の4年制大学があり、その8割近く(595校)を私立が占める。

 日本私立学校振興・共済事業団によると、2009年5月1日時点で集計した570校のうち、文科省定員充足率が100%未満の大学は全体の半数近い265校。このうち、補助金が打ち切られる充足率50%未満の大学が31校ある。短大(356校)はもっと悲惨で、定員割れは約7割の246校、うち50%未満が27校に上る。

 同じ私学事業団がまとめた2008年度決算の速報値によると、集計した569の私大のうち222校は、授業料や補助金、寄付金を合わせた帰属収入から消費支出を差し引いた「帰属収支差額」がマイナスとなった。売上高だけでは人件費や設備費、管理経費などの経常支出を賄えない赤字の私大が4割もあるというわけだ。