アーネスト・ヘミングウェイがこよなく愛し、1940年から20年間過ごしたキューバ。首都、ハバナの旧市街の風景は、今もほぼ当時のままだ。

 米国のホワイトハウスを模した旧国会議事堂やスペイン・バロックスタイルのガルシア・ロルカ劇場、ホテルやレストラン、通りに面した住宅などの建物は1階部分の天井が高く、コロニアル調の装飾が建物の細部にまで施してある。建物のほとんどが建てられてから数十年以上経過しており、近代的な合理的建築物とは違う優雅さと趣きが漂っている。

 また、映画『アメリカン・グラフィティ』さながらの1950~60年代のビンテージカーが街を優雅に走る様は、西側諸国の都市生活とは異なり、時間の流れる速度がゆったりと緩やかに感じられる。ハバナには、そこに身を置くだけで、ヘミングウェイやアメリカの富豪が集った当時の豊かさと華やかな文化を感得できる魅惑的な空間がある。

 ハバナに到着した私は、街が見渡せる新市街、ベダード地区にある高層ホテルに、夏の日の夕方、チェックインを済ませ、荷物を下ろすと早速、街の散策に出た。そして、これぞエンターテインメントと名高い必見のナイトスポット、キャバレー・トロピカーナの華やかで迫力のあるダンスに酔いしれた後、おしゃれなクラブスポット、サラ・リトルで明け方3時までハバナの夜を満喫し宿に戻ると、翌日、目が覚めたのが11時。すでに陽は高い。

耳元に息を吹きかけてきたビキニの女

キューバのハバナ。今、ここ!

 サンドイッチでも食べるかとプールサイドの席に腰掛けると、白いビキニで目が青い褐色の女性と、金髪の白人で黒いビキニをまとった女性の2人が、微笑みながら何やら話しかけてきた。

 この現地人美女は褐色の方がミリー、白人の方はアサリー。ミリーは26歳でコンピューター系の仕事をし、アサリーは22歳の学生だという。ミリーにはジミーという旦那がいて、このプールサイドにいるというので手招きをして呼ぶと、温厚そうな紳士だが、どう見ても年齢差は親子と言っても通用しそうなくらい離れている。

 私は一驚するも、精根を持て余したこの若い褐色の肉体を乗りこなすには、旦那もさぞ大変だろうなあと含み笑いをすると、驚いたことにミリーは旦那のいる前で、私の膝の上に座り、子どもをあやす母親のように顔を近づけ、両手を私の首に回して何かを囁いてくるのである。どうやらミリーは私に白人のアサリーとつきあうように勧めているようだ。

 そして「あなたはこのホテルに泊まっているのか?」と耳元に息を吹きかけて聞いてくる。私は相手の意図していることを、どういう話が切り出されるのかという期待と喜びの中で思索していた。

 「スィー(そうだ)」と返事をすると、ミリーは私の手のひらに「♂」と「♀」の記号を指で描いて、私とアサリーの手を握らせ、ホテルの上の方を指さしてから、左右の人差し指をくっつける動作の後、ニヤリと淫靡に白い歯をみせた。