プーチン首相がロシア国内各地を経済立て直しのために飛び回っていた今年(2009年)の5月、トルコ地中海に面したリゾート地アンタルヤに現代の宮殿と見まがうばかりの超高級リゾートホテル「Mardan Palace」がオープンした。

地中海沿岸で最高のリゾート地が完成

 総工費は1500億円。メーンロビーはクリスタルで輝き、全516室の客室はタイプ別に様々な趣向が凝らされている。 11のレストランと高級スパ、1万6000平方メートルの屋外プールにガラス天井の水族館、さらにはゴルフコース、サッカースタジアム、屋外劇場等々、地中海沿岸で最高のリゾートとの呼び声も高い。

 オープ二ングセレモニーにはトルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン大統領、ロシアからはルシコフ・モスクワ市長夫妻はじめ政財芸能界の大物メンバー、さらにハリウッドからはリチャード・ギア、シャロン・ストーン、マライア・キャリー、もちろんパリス・ヒルトンも参加した。世界中からセレブリティが集まり、さながら「オリンピックの開会式のようだった」と報じられている。

 このリゾートのオーナーは、テルマン・イスマイロフ氏(52歳)、リテールを中心とする企業グループASTグループのオーナーである。 同氏はアゼルバイジャン出身、小さな露天商から身を起こし、今年のロシア版フォーブス長者番付では6億ドルの個人資産で61位にランキングされている。

巨大市場(チェルキゾフスキー市場)の駐車場はいつも満車で身動きが取れない

 ところが、経済危機の最中のこの振る舞いに腹の虫が治まらなかったのがプーチン首相である。プーチン首相は、イスマイロフ氏が主要オーナーと見られる、東欧圏最大の巨大卸売市場「チェルキゾフスキー市場」に矛先を向けた。

 同市場はモスクワ中心部から東に地下鉄で20分ほどのところにある。イズマイロフスキー市場は、週末にみやげ物や骨董品を買い求める地元民・観光客で賑わうバザールとして有名だが、チェルキゾフスキー市場はその隣に広がる巨大卸売(兼小売)市場である。

さながら戦場のような喧騒チェルキゾフスキー市場

モスクワ チェルキゾフスキー市場

 元々は、公園(市有地)と体育大学(国有地)であったところに、今では体育大学のスタジアムが埋没してしまうほどの勢いでアーケードが迷路のように立ち並んでいる (Google Map の航空写真で確認するとよく分かる=右の図)。

 そこに、合わせて4万人とも言われる中国、ベトナム、中央アジアからの行商人がボロボロのトラックやバスに荷物を満載して押し寄せてくるのだ。筆者はモスクワの景気観察にこのマーケットをよく訪問したが、景気が絶頂にあった昨年の夏は、まるで戦場のような喧騒が終日続いていた。