霞が関と同様に、7月は、日銀にとっても人事異動の季節。しかし、中央官庁と比べて地味な存在のためか、日銀人事がマスコミの観測記事になったり、詳細に解説されることは滅多にない。当コラムは通常は金融政策を中心のテーマにしているが、今回は政策を動かす「人」に注目し、日銀人事の傾向と今後の焦点について解説しよう。(敬称略)

「白川総裁・渡辺副総裁案」を提示、日銀人事

武藤敏郎前副総裁(元財務次官)の総裁昇格は民主党の反対で否決された。理事の財務省枠も危うい?〔AFPBB News

 日銀マンが最大の関心を払うのは理事人事だ。世間では正副総裁の人事が注目され、昨年春の交代劇は野党・民主党の横槍もあって異常に盛り上がったが、日銀内部は意外と淡々としていた。

 所詮、正副総裁や審議委員は国会同意人事で、人事案を作るのは財務省。当事者である日銀の意向など無きに等しい。それよりも事務方トップである理事人事の行方は組織人として興味津々というわけだ。

 正副総裁と審議委員で構成される政策委員会が「スリーピングボード(眠れる会議)」と揶揄されていた旧日銀法時代の理事は大きな権力を握っていた。1998年の新・日銀法施行で政策委が名実ともに最高意志決定機関として生まれ変わったため、理事は政策決定を執行する立場に格下げされた。それでも、理事が日銀出世競争の最終ゴールであることに変わりはない。

理事ポストの財務省枠は消える?

 理事の定数は6人、任期は4年だ。3月に鮫島正大(1976年入行)が退任し、早川英男(77年)が昇格済みのため、今年のイベントは終了済み。早くも関心は来年の人事に移っている。

 現在の顔ぶれは就任順に水野創(75年)、堀井昭成(74年)、井戸清人(73年=財務省枠)、山本謙三(76年)、中曽宏(78年)と前出の早川。このうち、水野、堀井、井戸の3人は2006年の就任で、来年5月以降に順次任期を迎えるため、来年は3人もの新任理事が誕生する。

 理事ポストのうちの1つは財務省の指定席だ。順当ならば来春の井戸退任後に、財務省から1人補充要員が送り込まれてくるはず。しかし、民主党は官僚の天下りに批判的で、2008年春の正副総裁人事では、財務省OBの就任案をことごとく拒否した経緯がある。

 8月30日の総選挙で政権交代が実現すれば、財務省の指定席は廃止される可能性が高い。その場合は、日銀内部から3人が昇格することになり、理事が一段と若返ることになる。