独特のやぶにらみ(右目は義眼)の風貌で人気者だった個性派俳優ピーター・フォークが亡くなった。アカデミー賞にノミネートされたこともある演技派として貴重な存在だった彼の訃報に接し、多くの人が「刑事コロンボ」でのあのヨレヨレのコート姿を思い浮かべたに違いない。

原作を“超えた”刑事コロンボの吹き替え

映画『ブリンクス』のピーター・フォーク

 風采上がらぬ出で立ちのコロンボが、エリートの犯人にしつこくつきまといながら徐々に追い詰めていく様が痛快なミステリードラマは、日本でも1972年からシリーズ放送が始まり、度々再放送もされてきた。

 その人気に一役買っていたのが、性格俳優・小池朝雄による絶妙なる吹き替え。

 「ウチのかみさんが・・・」という決まり文句も、原語ではただ「My wife」と味もそっけもないものだったから、日本語版脚本のオリジナリティ、日本語というものの表現力の裾野の広さが作品を際立たせたとも言えるだろう。

 同じ作品を英語版で見ると、全く別の作品と思えてくるほど雰囲気が違うのである。そんなこともあって、小池が1985年に急逝した後を継いだ石田太郎は、雰囲気を壊さぬよう大変な苦労をしたという。

 この吹き替えという作業は世界中で行われているが、ロシアをはじめとした旧東側諸国では原語音声が流れる上に単純に自国語を被せる方式、つまり国際ニュースの同時通訳のような方法をいまだにとっていることが多い。

オーストラリア映画ですら吹き替える米国

 日本で1956年に始められた頃もそんな具合だったのだが、男女の区別も無視し、ごく少人数での吹き替えでは、映画やドラマの雰囲気はぶち壊しだ。

 外国語の作品は、映画館では字幕、テレビ(地上波)は吹き替え、と日本では住み分けされているものの、米国では吹き替えが基本となる。

 メル・ギブソンの出世作『マッドマックス』(1979)も、役者たちのオーストラリア英語の訛りがひどいということで吹き替えられ公開された。

 オーストラリアで「ネイティブ」英会話を習得し意気揚々米国に乗り込んでも、この映画のような扱いを受ける可能性があることを忘れずに。