CIS諸国に対する金融危機の影響

 世界金融危機の影響を受けて、ロシアを含むCIS諸国*1に軒並み景気後退が見られる。6月下旬に公表された世界銀行によるリポート(“Global Development Finance” 2009年版)によれば、ロシアを含むCIS諸国の実質GDP成長率(以下「成長率」と表記)は、2007年が8.6%、2008年は5.6%だったのに対し、2009年はマイナス6.2%と予測されている。

 そして、ロシアの景気後退の幅はウクライナに次いで大きくなるものと予測されており、2009年の成長率はマイナス7.5%と予測されている(ウクライナはマイナス9.0%)。

 また同リポートは、ロシアの景気後退が、ロシアとの経済的な結びつきが強いCIS諸国の経済に対して負の影響を与えると見ている。ロシアでは、危機が深まるとともに失業が増加し、ロシアへの出稼ぎ労働者(その多くは都市部において清掃労働などの非熟練労働に従事している)が解雇される傾向にある。これに伴い、ロシアへの出稼ぎ労働者からの送金に依存する度合いの高い国々で、軒並み景気が後退している。

ロシアへの出稼ぎに依存する国々

 例えば、中央アジアのタジキスタンでは、国内総生産(GDP)の46%がロシアをはじめとする外国からの送金で占められており、その比率は、欧州部のモルドバでは34%、中央アジアのキルギスでは28%となっている(2007年の値、出所:上記世銀リポート113ページ)。

 そして、それら諸国の2009年成長率の予測値は、タジキスタンが2.0%、モルドバがマイナス3.4%、キルギスは0.9%となっている(当該世銀リポートにはタジキスタンの予測値が出ていないため、上記3カ国についてはIMFの世界経済見通し(2009年4月版)による成長率予測で代用)。

 ちなみに「欧州最貧国」と言われるモルドバは、人口の35%以上が家計を出稼ぎ労働者からの送金に依存するという、いわば「出稼ぎ立国」状況にあるが、その背景には、同国には地下資源が少なく、農業が主産業であり、製造業が貧弱である点が指摘できる。

 タジキスタンやキルギスも、モルドバと同様に地下資源が少なく、製造業が貧弱であることから、ロシアなどへの出稼ぎ労働者からの送金に依存する経済構造となっている。

CIS諸国への資本流入の減少

 また、当該世銀リポートによれば、CIS諸国が抱える対外債務のうち2009年内に返済期限が到来するものは2830億ドルに上るが、同諸国のうち返済の原資を十分に備えているのはロシアのみであるという。

 ちなみに、世界屈指の豊富な石油資源を持つカザフスタンや、CIS諸国の中でロシアに次ぐ人口があり、鉄鋼、化学肥料、小麦などの輸出産品を持つウクライナには、サブプライム問題の勃発以前は外国資本が大量に流入していたが、同問題の勃発以後、資本流出が相次いだ。

*1=旧ソ連を構成していた15共和国のうち、バルト3国を除く12カ国はソ連崩壊後に「独立国家共同体」(CIS)を結成した。なおグルジアは、2008年8月に勃発したグルジア紛争を機にCISから脱退している。またトルクメニスタンは、永世中立など同国独自の外交方針により準加盟状態となっている。ちなみに、上記の世界銀行のリポートでは、旧ソ連諸国のうちバルト3国を除いた12カ国について、グルジアやトルクメニスタンも含めて「CIS諸国」と表現しており、本稿でも便宜的にそれに従っている。