陽光降り注ぐ南仏のリゾート地、コート・ダジュール。大物映画スターたちが集う5月のカンヌは国際映画祭の開催で華やかな空気に包まれる。欧米の映画大国以外からエントリーする映画人にとって、この地での成功は世界進出への第一歩をも意味し、過去、黒澤明監督をはじめとして多くの日本人も恩恵を受けてきた。
あのトリアー監督がついに映画祭出入り禁止に
そういったことからアカデミー賞よりずっと意味があり、また身近に感じる存在だが、今回日本からエントリーした河瀬直美監督の「朱花の月」や市川海老蔵主演の「一命」は、残念ながら受賞はならなかった。
毎回、時代を象徴する作品が話題をさらうが、今年は映画そのものより、一監督の舌禍事件の方が世の関心を引きつけた。
現代デンマークを代表し、2000年には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で最高賞「パルムドール」を受賞するなどカンヌの常連であるラース・フォン・トリアー監督が、映画祭事務局から「ペルソナ・ノン・グラータ(外交用語で「好ましからざる人物」を意味する)」宣告され、事実上の映画祭出入り禁止処分を受けてしまったのである。
歯に衣着せぬ言動で騒ぎを引き起こすのが常のフォン・トリアー監督だけに、今回も、記者たちは「またか」といった感じで受け止めていたようだが、映画祭事務局の反応は違ったものだった。
過去にも、イベントにあまりにも批判的だった評論家時代のフランソワ・トリュフォーが出入り禁止となったことがあったが、今回問題視されたのは、記者会見でのヒトラーへの共感をほのめかす言動。
デンマーク人の理解を超えていたフランスらしさ?
ニュース映像を見る限りでは冗談めかした発言にも見え、それほどの大問題となることには思えないもので映画関係者からも疑問の声が聞こえてくる。
しかし、フランスには「人道に反する罪」を否定した罪、というものがあって、「ホロコーストなどなかった」と発言した者が実際に罪に問われたこともあるのだ。
フランスのそんな一面を、「表現の自由」が極めて高いレベルにあるデンマーク出身のフォン・トリアーはすっかり忘れてしまっていたのだろう。
考えてもみれば、カンヌ映画祭自体、ファシズムとの対峙から始まったものだった。