24時間365日アクセス自由。世界中に張り巡らされた通信網を通じて、手軽で、安価に、必要な情報を取り出したり、自ら情報を発信することができる。

 インターネットの出現が情報の流れを大きく変えたことに、誰しも異論は無いだろう。

 故に、「インターネットの特性は民主主義と親和性がある」「インターネットの普及は社会をより民主的なものへと変えていく力となる」――といった主張をしばしば耳にする。こうした主張を展開する人たちを、「インターネットの特性論者」と呼ぶことにしよう。しかし、彼らが言うほどにネットと民主主義、ないしは民主化との関係は単純ではないのだ。

米国が目論んだネットによる中東民主化

COP13開催中のバリでゴア氏が演説、米国抜きでの気候変動対策強化を訴え

クリントン政権下では米情報通信政策をリード(元米副大統領のアル・ゴア氏)〔AFPBB News

 「インターネットの特性論者」の誕生は、1994年3月にブエノスアイレスで行われた国際電気通信連合(ITU)の世界開発会議で、当時の米アル・ゴア副大統領が行った演説(ゴア・ドクトリン)に端を発すると考えられる。映画「不都合な真実」に主演、ノーベル平和賞を受賞するなど、熱心な地球温暖化問題の活動家として知られるゴア氏だが、ビル・クリントン政権下ではアメリカの情報通信政策をリードしたキーマンであった。

 ゴア・ドクトリンのポイントは以下の2つだ。第1に「世界情報基盤(=インターネット通信網)は国民経済と国際経済の双方に成長のカギとなる」。第2に「世界情報基盤は民主主義建設のカギとなる」というものである。ゴア・ドクトリンに触発される形で、主に米国でネットと民主主義を関連付ける議論が活発になった。

<08米大統領選挙>7年過ぎても大きな争点、同時多発テロ

同時多発テロを契機に「中東の民主化促進論」が強まった(2001年9月11日 ニューヨーク)〔AFPBB News

 特に、中東地域との関わりにおいては、もう1つの背景を指摘することができる。2001年の9.11同時多発テロ事件以降、米国は対テロ戦争へと突入していく。イラク戦争必要論の1つである「中東での民主化を促進することが重要である」という議論の中で、「インターネットの普及による民主化の可能性」が論じられるようになった。

 当時、中東におけるインターネットと民主化に関する議論では、「国境をものともしないネットは、国民をコントロールするための政府の力を多様な方法で減少させる」「ネットは、その国境を有さない特性および個々人のエンパワーメントによって、国民の関与する活動を管理しようとする政府の能力を制限する」などの特性を挙げ、中東諸国であってもネットは民主化に寄与するという楽観的な観測を示している。

ネットに監視網、利用状況を把握

 「インターネットの特性論者」が念頭においているのは、ネットの設計原理でもある「オープンで、独占的でなく、アクセスや利用に何の個人の身元認証も必要としないプロトコル群により定義づけられたネットワーク」といった特性だ。

 しかし、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授が看破したように、こうした特徴はインターネット創成期には顕著なものであったかもしれないが、今となっては過去のものになってしまった感がある。ましてや、世界中のネットユーザーが等しくこうした特性を享受できる保障など、どこにもない。

 確かに、インターネットそのものは「オープンで、独占的ではなく、自由」な存在なのだが、ネットワークにコントロールの網をかけることで、本来の姿とは異なる性質を持つネットワークを作り出すことは技術的にそれほど難しいことではない。非民主主義国の政府にとってはなおさらのことである。「インターネットの特性論者」の盲点は、この点を十分考慮に入れていない点にあると言えるだろう。