モスクワの救世主ハリストス大聖堂

春の訪れとともに、キリスト教徒はイエス・キリストの復活を毎年盛大に祝う。ギリシャ正教系の教会では復活大祭あるいはパスハと呼ばれ、今年は4月19日に開催された。大祭の名の通り、大変重視されている。

 ロシアではモスクワの救世主ハリストス大聖堂で就任して間もないキリル総主教の指導の下、大勢の信者が祈りをささげた。その中にはメドベージェフ大統領とプーチン首相の姿も見られた。

 この大聖堂は1931年にスターリン体制下で破壊されたが、ソ連崩壊後に再建されたものであり、ロシアにおける正教復活のシンボル的な存在である。奇しくも大祭前日の4月18日に筆者は東京・五反田の立正大学で開かれたユーラシア研究所(旧ソビエト研究所)の改称20年記念シンポジウムで、スターリンの母国グルジアとロシアの関係などについて講演する機会を与えられた。

 今回は、ともに正教徒が住民の多数を占める両国を例に取りながら、宗教問題や国家間関係について少々考えてみたい。

宗教の「復活」

 ソ連崩壊以降、社会が混乱する中で宗教が多くの人の心のよりどころとして権威を復活させていったことは様々な機会に指摘されることである。先日もNHKで「失われし人々の祈り~膨張するロシア正教~」と題するドキュメンタリーが放送されたので、ご覧になった方も多いかもしれない。

 筆者はかつて立派な学者がオカルトまがいの話を本気で信じている姿を見たことがあり、ソ連の作った、宗教に免疫のない社会の存在に驚いたことがある。新興宗教も入り込み、社会問題化していったが、その一方で若者の心をとらえた伝統宗教の復活も著しい。

 筆者がグルジアに滞在していた時の経験では、筆者に近い世代(1970年前後に生まれ、ソ連崩壊の過程で10代だった)は特に敬虔な信徒が多いように感じる。筆者の身近には多かれ少なかれ食事制限をしている人が少なくない。