ビットコインで潤うモスクワの大富豪と、採掘で疲弊するシベリア極東(写真:ロイター/アフロ)
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(安木 新一郎:函館大学教授)

 2024年12月4日、プーチン大統領は「ビットコインを禁止できるのは誰か。誰もいない」と発言し、ビットコインをはじめとする暗号資産を外国貿易の決済で用いることができるとする規制緩和を指示した。

 ウクライナ戦争が続く中、ドルやユーロなどのハードカレンシーが使えないロシアにとって、ビットコインは重要な国際決済手段となっている。現に、2025年3月14日、ロイターはロシアが中国やインドとの原油取引において、ビットコインやイーサリアムに加え、ステーブルコインUSDTまで使っていると報じた。

 結果として、プーチン大統領を支える資源関連の大企業や富裕層は合法的に暗号資産を貯めて使えるようになったのだが、辺境のシベリア極東では混乱が生じていた。

 2025年1月1日から3月15日まで、バイカル湖周辺のイルクーツク州、ブリヤート共和国、ザバイカル地方の3つの連邦構成主体(日本の都道府県に相当)でビットコインのマイニング(採掘)が制限された。暗号資産の採掘に電力を使いすぎて、シベリア極東で冬が越せなくなると予想されたのである。

 モスクワの富裕層は極東シベリアで採掘されたビットコインで儲けることができるが、極東シベリアの民は採掘のせいで電力不足に怯えて生活している。

 ロシアでは、2021年1月1日からビットコインを含むデジタル暗号通貨(暗号資産)について、決済手段としての使用は禁止するが、ロシア中央銀行の規制の枠内での発行、採掘、売買が認められた。

 これは、事実上、暗号資産を積極的に活用したい、プーチン大統領を支えるオリガルヒ(政商、大富豪)がロシア中央銀行に勝利したことを意味する。ナビウリナ・ロシア中央銀行総裁は、暗号資産やステーブルコインの導入については、一貫して否定的だった。

 一方、すでに採掘をしてきたオリガルヒたちは、国会で暗号資産に関する規制緩和を強く進めてきた。結果、プーチン大統領は、完全に暗号資産支持派に取り込まれたのである。