首相の麻生太郎は3月31日の記者会見で、2009年度補正予算案審議をめぐり、野党が抵抗すれば衆院解散もあり得るとの考えを表明した。このため、「5月解散」説がにわかに高まり、衆院選投開票日は「6月7日」が浮上している。すべては麻生の決断次第だが、内閣支持率が大幅に好転しない限り、麻生は決断できないと筆者は見る。民主党代表の小沢一郎も自らの進退問題で決断を下せず、けじめをつける時機を逸してしまった。自民、民主両党ともに不人気のリーダーを抱えたまま、次期衆院選に臨むのか。両党ともリセットが必要なのに、不可解な政局が続いている。(敬称略)

 記者会見で麻生は過去最大規模の追加経済対策を取りまとめ、その裏付けとなる2009年度補正予算案を今国会に提出する意向を示した上で、「出した以上は、できるだけ速やかに成立させるよう、最大限努力したい」と強調した。

 これに対し、記者団からは「補正予算成立まで衆院解散は行わないという意味か、それとも補正審議中でも時期が来たら決断することがあるのか」との質問が飛んだ。しかし、麻生は「政局より政策。しかるべき時期に私が判断する」とこれまで通りの答えにとどめた。

 納得しない記者は「(首相は)3月初めに追加景気対策は実行しなければ駄目だと言ったが、補正成立までは衆院解散はないという認識か」と追い討ちを掛けた。

 すると、麻生は「(野党が)補正予算案に同調するのか、反対するのか。それらの状況をいろいろ判断しなければならない。どうしても反対というなら、(補正予算関連法案の衆院再可決が可能になるまで)60日間を要ししてでもやるか、それを打ち切ってでも『これがわれわれの案だ』ということで選挙をすべきなのか。その時の状況で判断する」と言明した。

自民、5月解散「千載一遇のチャンス」

追加経済対策「4月中旬までに」、麻生首相が補正編成を指示

解散に踏み込んだ首相、その真意は?〔AFPBB News

 審議引き延ばしなどで野党が抵抗すれば、補正成立を待たずに解散もあり得る。麻生はこうした考えを示したわけだ。解散に関しては慎重な発言を続けていたから、かなり踏み込んだと言ってよいだろう。

 麻生会見を受け、与野党とも敏感に反応した。西松建設の違法献金事件で民主党が小沢の進退問題で揺れているだけに、自民党内には「首相にとって、5月は千載一遇のチャンス」(中堅)と解散を期待する声が強い。

 自民党のある幹部は「この最大のチャンスを失えば、解散は都議選(7月12日投開票)後に先送りされる。9月10日の任期満了に近づけば、自民党内で『麻生降ろし』の声が強まる可能性が高い」と指摘する。また、ベテラン議員は「小沢の続投には世論の批判が強く、自民党にとって都合がいい。仮に小沢が代表を辞任しても、『ポスト小沢』をめぐり民主党が混乱し、態勢の整わないうちに解散に踏み切るべきだ」と言う。

 政府・与党が書くシナリオはこうだ。4月10日には総額10兆円超の過去最大規模の追加経済対策を取りまとめ、その裏付けとなる補正予算案を27日に提出、5月中旬までに成立させようというものだ。民主党が補正審議に抵抗しても、7月12日投開票の都議選と衆院選の「ダブル」を嫌う与党・公明党にとっては、「5月中旬に解散し、6月7日投開票がギリギリの線」(幹部)となる。

「解散やってもらおう」、麻生発言で民主に勢いも

 ただ、自民党内には「首相の発言は民主党に対する脅しにすぎない。解散は7月のサミット(主要国首脳会議)後」(閣僚経験者)との見方も根強い。麻生が「解散権」をちらつかせたのは、所詮は民主党を牽制し、揺さぶるのが最大の狙いと見るわけだ。

 一方、麻生周辺は次のように指摘する。「首相はソマリア沖に派遣している海上自衛隊のため海賊対処法案を何とか通したいと思っている。補正予算関連法案も必ず通すには、衆院通過後に60日を確保する必要がある。都議選をまたいで、(6月3日に会期末となる)今国会の大幅な会期延長が必要だ。解散すれば、こうした法案は廃案になる。『政局よりも政策』と主張する首相が、法案を成立させないまま解散することは考えにくい」