民主党代表の小沢一郎は、西松建設・違法献金事件をめぐり自身の公設秘書が政治資金規正法違反の罪で起訴された後も、代表続投の意向を表明した。今のところ、民主党内の続投に対する異論はごく少数にとどまり、党内には重苦しい「沈黙」が続いている。しかし、このままでは民主党への世論の支持は下がり、喜ぶのは自民党だけ。3月29日の千葉県知事選では民主党の推薦候補が大差で破れ、「選挙の小沢」神話も崩れ始めている。今や、小沢は民主党にとってマイナス要因。次期衆院選前に、代表辞任はいずれ避けられないだろう。(敬称略)
「男が不覚な涙で恐縮ですが・・・」。3月24日午後9時半すぎ、この日の秘書起訴を受け、小沢は民主党本部で記者会見。代表続投の意向を示しながら、涙を拭うシーンさえ見せた。その理由を問われると、小沢は苦笑いを浮かべてから次のように語った。「別に(今まで)つらかったというわけではありません。ただ、本当に私があたかも犯罪を犯したかのような世間の状況の中で、多くの仲間の皆さん、国民の皆さんから本当に多くの励ましの言葉をいただいた。そのことを申し上げる時に、胸が詰まっての不覚の涙ということです」
これに対し、民主党内からは「男が涙を見せてはいけない」と不満が漏れる一方、「泣くとは思わなかったが、これで『小沢を信じて、民主党を支えてやろう』と世の中が変わるかもしれない」という期待感も出た。前者はよいとしても、後者は世論を全く分かっておらず、あきれるばかりだ。
「あんな涙にだまされてはいけない」と自民党ベテラン議員が指摘する通り、小沢の「演技」にホロっとしては政治家も新聞記者も務まらない。実は小沢は会見に先立ち、新党日本代表の田中康夫と会い、会見の指南を受けていた。田中が小沢に渡したメモには、目を潤ませるよう促す内容が含まれていたという。あの涙が本物だったのかどうかは分からない。
小沢会見、3つのポイント
小沢の会見のポイントは3つ。検察への対決姿勢、代表続投の意向表明、そして世論次第の辞任示唆だ。
まず、小沢は「私自身が収賄罪などの犯罪に手を染めていたならば、どのような捜査、処罰でも甘んじて受ける。しかし、そのような事実はない」と言い切った。
起訴された小沢の公設秘書、大久保隆規は小沢の資金管理団体「陸山会」の会計責任者。起訴状によると、大久保は2006年までの4年間で、実際には陸山会と民主党岩手県第4区総支部が西松建設から献金を受けながら、同社のダミー政治団体「新政治問題研究会」など2つの団体から計3500万円の寄付を受けたとする、虚偽の内容を政治資金収支報告書に記載したとされる。
東京地検の谷川恒太次席検事は「政治資金収支報告書に虚偽の記入をして政治資金の実態を偽ることは、国民を欺いてその政治的判断をゆがめることにほかならない。従って、規正法の法定刑で最も重い禁固5年以下とされている」「ダミーの政治団体の名義を利用する巧妙な方法により、国会議員の政治団体が特定の建設業者から長年にわたって多額の寄付を受けてきた事実を隠していた」と指摘したうえで、「看過し得ない重大、悪質な事案と判断した」とする異例のコメントを発表した。
これに対し、小沢は「献金を受けた事実はそのまま報告している。献金をいただいた相手をそのまま記載するのが規正法の趣旨で、『認識の差』が起訴という事実になった」「この種の問題について、逮捕、強制捜査、起訴という事例は記憶にない。合点、納得がいかない」と反論した。西松からの献金とは知らず、「単なる認識の違い」であり、収支報告書の記載ミスにすぎないと言いたいのだ。
しかしこれだけでは、「起訴事実についての釈明が十分されていない。一番肝心なところの説明がなかった」(公明党幹事長・北側一雄)と指摘されてもやむを得まい。
トロイカ会談、「禅譲」期待の菅・鳩山
代表続投の意向に関して、小沢は会見で「自公政権を覆し、国民の側に立った政権を実現するのが、私の最後の仕事だ」と訴えた。ただ、次期衆院選への影響を問われると、「代表を続けることがプラスかマイナスかはわたしに判断することはできない。国民の受け取り次第だ。政権交代を実現させるその一点で対処したい」と述べ、世論の動向によっては進退を再考する可能性を示唆した。
一方、民主党内ではほとんどの議員が沈黙を余儀なくされ、「小沢辞任論」は事実上封印。反小沢系議員の間には、「いずれ自発的に代表辞任の判断を下すだろうから、党内混乱を招くような小沢批判は控えよう」という気持ちもあったようだ。