(写真左)
高山 清光
Pendo.io Japan株式会社 カントリーマネージャー

(写真右)
入山 章栄 氏
早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授

 企業がDXを推進する中でITツールの導入は欠かせない。しかし、残念なことに手段であるはずのデジタル化自体が目的になっているケースも少なくない。Digital Adoption Forumの基調講演では、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山氏と、Pendo.io Japanカントリーマネージャーの高山が「デジタルの利活用の意味」についてITツールの提供側、利用側双方の観点からディスカッションした。

※本コンテンツは、2022年7月14日に開催されたPendo.io Japan株式会社主催、JBpress/JDIR協力「Digital Adoption Forum~『デジタルの利活用と定着化』で実現する真のDX」の基調講演「真のDXを実現する、人に寄り添うデジタル」の内容を採録したものです。

ソフトウエアの利用状況をデータで見える化するPendo

入山 この基調講演では、どうしたら日本のDXが進むのか、Pendoの日本法人代表の高山さんとディスカッションしていきたいと思います。まず高山さんの方からPendoという会社について紹介していただけますか。

高山 ありがとうございます。Pendoはアメリカで9年、日本法人ができて1年という会社で、日本でのフラッグシップイベントは今回が初めてです。ソフトウエアを使いやすくするソフトウエアというちょっとユニークなITツールを提供しています。


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入山 いろいろなアプリケーションを使いやすくするためのソフトウエアということですか。

高山 SIerやITベンダーであれば、自社が開発したソフトウエアが、ユーザーにどう使われているのか、どの機能がよく使われているのかなどをモニタリングして、ユーザーに対する貢献度を把握することができます。

入山 今、日本企業では数多くのアプリケーションが、オンプレミスやSaaSで導入され複雑になっていて、中には使われていない古いソフトウエアもあります。こうした混乱を整理できることにも使えそうですね。

高山 買うまではしっかり検討するのですが、買った後はどう使われているかを気にしない企業も多いと思います。Pendoを導入することで、いつ誰が使っていて、どこで困っているのかがはっきりします。使われていない場合には、使いやすくするガイドをポップアップすることもできます。

入山 利用状況をデータで可視化することで、使われていないアプリケーションを整理したり、使いやすくしたりすることができるわけですね。

ソフトウエアの見直しとPLGへの転換で企業全体の効率化を図る

入山 最近ではデジタル化を担当するCDO(Chief Digital Officer)を置く企業が増えています。CDOの役割は会社全体を俯瞰して、どこを強化するべきかを判断することです。Pendoはある意味、CDOの代わりになりそうですが、アメリカではどのように使われているのでしょうか。

高山 アメリカでは日本以上にソフトウエアを使いやすくすることへの関心は高いですね。中途で入社してくる人も多く、「前にいた会社と比べてこのアプリケーションが使いにくい」といったことがすぐに表面化します。そういう時がPendoの出番です。

入山 何十年も同じ仕組みを使っていると、本当は非効率なのに気が付かないことは確かにありそうです。Pendoならそれを明らかにして、会社全体を効率的に変えていけそうです。

高山 パソコンであれば動作が遅いから買い換えるということはすぐ思いつきますが、10年以上使っているソフトウエアはそうはいきません。長く使ってきたからこそ慣れてしまっていて、見直されなかったりします。

入山 デジタル化の遅れが指摘される日本企業ですが、システムがありすぎる 「ITメタボ」の状態になっていて、動きがとれなくなっているのかも知れません。だからこそ「Pendoで健康診断をしましょう」ということですね。

高山 まさにその通りです。Pendoにはもう1つの役割もあります。今までのビジネスは営業主導で売上を生み出すSLG(Sales-led Growth)だったのですが、デジタルで急成長している企業はプロダクトが成長をリードするPLG(Product-led Growth)のビジネスモデルになっています。


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入山 無料版でサービスを利用してもらって、もっといろいろな機能が使える有料版に誘導するフリーミアムモデルがありますが、それのBtoB版という感じでしょうか。

高山 そうです。PLGではプロダクトの良さが問われます。Pendoで利用状況をモニタリングして、ユーザーの反応を見て改善することで、PLGを実現することができます。

ITツールの選定は経営からのメッセージ

入山 お客さまと接している中で、日本企業のDXの課題はどう捉えていますか。

高山 ITリーダーの意識によって進み方が全く異なります。
ITツールは競争優位を企業にもたらすためのものですから、どのようなITツールを選定するのかは経営からのメッセージになっていると思います。その意識を持っているか否かが大きな差につながっているのではないでしょうか。
  

入山 ITリテラシーより、ITに対する意識の違いが差を生むということですね。まさに同意見です。ITの重要性を理解している人がトップについている企業ではDXが進んでいます。

高山 逆にCIO(Chief Information Officer)やシステム部長という立場の方が、経営的な視点を持っていないこともあるのではないかと感じています。この辺りはいかがでしょうか。

入山 正解がない中で決断するのがリーダーの仕事ですが、決める能力を向上させるには場数を踏むしかありません。大企業は仕組みが整っているだけに、20代、30代では決める経験がなく、50代になってから突然決定力を求められますが、それではできないのも当然です。

 DXは言葉が先行し過ぎている感じがしますね。デジタルは道具であって、あくまでも手段に過ぎません。大事なのはビジョンであり、戦略です。それがあって足りない部分をデジタルで埋めていくことが必要です。

 もう1つが経路依存症です。会社は複雑でいろいろな構成要素があってうまく回っています。DXだけやるのは無理があります。同時に会社全体を変えていかなければなりません。だからこそデジタル化のトップには経営者目線が必要なのです。

高山 営業出身の役員の方の中には、ITは業績とは関係ないと言い切るような人もいるようです。

入山 大事なのは全体感です。私が理事を務めているある企業のCIOに大変優秀な方が就任 したのですが、最初にやったことはチャットツールの導入でした。それによってトップと現場がダイレクトにつながって、コミュニケーションが大きく変わりました。これはITツールが組織を変えるきっかけになった一例ですが、Pendoにもそうした役割が期待できそうです。

知の探索と知の深化を両立し日本企業にイノベーションを!

高山 データの利活用を経営に生かしていく上でのポイントはどんなところにあるのでしょうか。

入山 1つがデジタルを使って新しいビジネスを生み出していくことです。これからのデジタルはIoTが主流になり、日本企業にとってはチャンスです。あらゆるものにデジタルが付加されるIoTでは、もの自体の良さが問われるからです。

高山 ソフトウエアに弱いと言われる日本企業ですが、ものづくりは得意分野です。

入山 もう1つが「両利きの経営」です。イノベーションには視野を広げて知見を組み合わせる「知の探索」と、目の前のことを掘り下げて効率化していく「知の深化」の両方が必要ですが、効率化を求める日本企業は知の深化に偏っていました。

 しかし、デジタルは圧倒的に知の深化を得意とします。今まで人と時間を掛けてきた知の深化をデジタルに任せることで、浮いたリソースを知の探索に割り当てられます。両利きの経営によって日本企業もイノベーションを起こすことができるのです。

高山 決めることと同様に、知の探索についても日本企業の人は場数を踏むことが必要ですね。

入山 だからこそ組織のあり方や人材の育成を考えたデジタル化が必要です。

高山 ウォールマートでは、留守宅の冷蔵庫まで食品を届けるサービスを開始したそうです。もともとおもてなしを強みとする日本からそういう発想が生まれても不思議ではありません。デジタルによってもっとさまざまなビジネス機会が生まれてくるはずです。

入山 日本企業が復活する鍵はデジタルの活用にあります。だからこそ、Pendoのようなデジタル企業を応援したいと思っています。今日のこの後の講演を楽しみにしています。

 Pendoが企業に提供するサービスの価値や面白さをお伝えし、続く3セッションへの期待が高まったところで、基調講演はクローズとなった。

Digital Adoption Forum 「デジタルの利活用と定着化」で実現する真のDX
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